デマンドジェネレーションの刷新は、Googleディスプレイ広告の新たな標準となりうるか

2025年1月30日、Google がデマンドジェンキャンペーンの大幅な刷新を発表した。2025年3月を目処に大きな変更や新機能の追加がリリースされるようだ。

発表内容をサマリーすると以下のようになる。

  • 配信チャネルの管理機能
  • GDNへの配信追加
  • YouTubeショートで縦型画像広告の開始
  • ショッピング広告のUX変更
  • ローカル在庫広告との連携
  • レポートカラムの追加(VTC)

これだけでも、毎年 5月に行われるマーケティングイベント「Google Marketing Live」あたりでどどーんと発表されてもおかしくないような内容ばかりだが、そういうタイミングを待たずしてしれっとリリースされた。

配信チャネルの管理と、Googleディスプレイネットワーク

多くの新機能の中でもとりわけ注目したいのが、配信チャネル管理の機能だ。2025年3月から(ベータ版としてではあるが)デマンドジェネレーションキャンペーンの現在の掲載面である YouTube(3種類)、Discover、Gmail に加え、新たに仲間入りする GDN(Google Display Network)の合計 6種類の配信面の管理ができるようになる。

画像:New ways to help you drive performance with Demand Gen より

これは 2つの意味で大きな変化だといえる。1つは、デマンドジェネレーションの位置づけが変わったこと。これまでは 「Google の持ちものである3つのプロパティ(YouTube、Discover、Gmail)を主なインベントリとする自動キャンペーン」がデマンドジェネレーションの立ち位置だった。

これは言い換えれば、Google の外側のサイトにある広告枠(AdSense)をターゲットにする GDN とは明示的に役割を切り分けたキャンペーンだったと言える。

切り分けた事情はいろいろあったと思うが、大きな理由の 1つは TAC(Traffic Aquisition Cost)が高い外部サイトを避け、利益率の高い Google プロパティに寄せる財務的なインセンティブがあったこと。もう 1つは昨今のサードパーティクッキー等のトラッキング問題に起因する技術的・ビジネス的な理由だ。自社プロパティのほうがクッキーに頼らずさまざまなシグナルを取得しやすく、最適化・最大化もしやすかったからだと思われる。

そのあたりのことはこの記事にも書きました

ところが、このタイミングでデマンドジェネレーションに GDN が正式に加わることになった。これによってデマンドジェネレーションはネットワーク(インベントリ)の成り立ちや事情は関係なく、Google で配信できるディスプレイ的な広告面をほぼまとめて配信できるキャンペーンタイプへと変貌を遂げることになる。

もう 1つの大きな変化として、やはり配信面の管理ができることが挙げられるだろう。自動化が最優先事項だった昨今の Google からは考えにくい動きだ。

配信先に GDN が加わることと関連するが、デマンドジェネレーションが検索以外の配信面を司るキャンペーンとなる以上、これを完全自動化してしまうと、それはもはや P-MAX と区別がつかない(※)。

おそらく、製品の差別化という観点から、配信面が管理できるようになった側面があるのかもしれない。

※「区別がつかない」は言いすぎかもしれないが、明らかに冗長ではありますね

デマンドジェネレーション、 P-MAX 、ディスプレイキャンペーン

これらの変化は、同時にディスプレイ広告キャンペーンの存在意義の低下にもつながっていく。

私はどちらかというと GDN 非推奨派なので少し意見が偏っているかもしれないが、現在は独立したディスプレイ広告のキャンペーンを新たに作成する広告主は少ないと考えている。(Google 自体が P-MAX を強く推奨している背景もある)

アルファベット(Google の持株会社)の決算を見ても、YouTube は伸び、GDN が微減傾向なのはここ数年ずっと変わらない。YouTube はあの規模でありながら二桁成長を続けているし、GDN はじわじわと減りつづけているのだ。

画像:GOOG Exhibit 99.1 Q3 2024 より抜粋

上述の記事「GDNは提案しない」にも書いたように、プライバシーイシューやファーストパーティデータ周りの環境変化などのさまざまな影響で GDN はここから伸びる要素は残念ながらないのだが、一方でせっかく世界最大のアドネットワークを持っているわけだから、可能なかぎり寿命は延ばして稼ぎ切りたいというのが人情だろう。

そういう思惑が重なって、GDN は P-MAX の登場と同時にバンドルされた。それでも Adalytics による告発などもあったりして、より衰退速度を増した GDN にさらにドーピングすべく、今度はデマンドジェネレーションにバンドルすることになったのだと思われる。

Adalyticsについてはこちらの記事にも書いています

GDN をデマンドジェネレーションに任せる際に P-MAX とデマンドジェネレーションは機能として差別化しないといけないであれば「自動化」と「管理」をバーターにして、デマンドジェネレーション側にチャネル管理機能を加えてしまおうという調整が、今回の落としどころだったのではないだろうか。

P-MAX は Google がゴリ押ししているだけあって利用率はずいぶん上がってはいるものの、MFA や検索ネットワーク詐欺などのオープンウェブ側の信頼度が高まる気配は依然としてないし、マネタイズだけなら決算を見て明らかなように YouTube に寄せたほうが賢明だ。(そしてそれはもともとある動画キャンペーンとデマンドジェネレーションで済むはずなのだ)

…と、こういったさまざまな事情をバランスしつつ、P-MAX を利用しない広告主を無理なく GDN のオークションに参加させていくための方策が、今回のデマンドジェネレーションの刷新だといえるのかもしれない。

いずれにせよ、3月以降はデマンドジェネレーションキャンペーンが事実上の Googleディスプレイ広告のスタンダードとなっていくのではないかと考えられる。というわけで、アップデートが始まったら配信チャネル管理は確認しておきましょう!