スタートアップ=インパクト>HC
Magic Moment というメガスタートアップの CEO である村尾さんの投稿をいつも興味深く拝読している。(村尾さんは大昔に Google に居たときの同僚で、私が知るかぎり最高の営業の一人だ)
2025年1月8日の彼の投稿は、特に考えさせられるものがあった。
全文はぜひ↑リンク先を見てもらえればと思うが、末尾の一節が特に印象的だったので引用させていただく。
結局のところ、大切なのは「より大きく」ではなく「よりスマート」に、AIの力を借りながら、ビジネスサイズに対して極限までHCではなくインパクトで思考し、小さな組織で大きなインパクトを生み出すこと。
それこそが、僕らスタートアップがAI時代に果たすべき役割なのかもしれない。
太字は筆者による
この認識に、100% 同意だ。
そういえば、以前取締役だったアタラ(現在もフェローとして関わらせてもらっている)でも、ロールモデルは世界中に散らばる十数名でグローバル製品を生み出す 37signals という会社だった。今ではそれが AI やさまざまな支援ツールを活用して多くの企業が実践できるようになっている。
そして実際は、スタートアップに限らず GAFAM のような大きな組織こそ AI を起点としたリソースのダイナミックな再配分を進めている。過去最高益を出しながら同時に数万人単位でリストラしているようなヤバい奴らがゴロゴロしているのだ。
スタートアップはそういうヤバいやつらより早く/速く動き、より高い生産性を生み出さなければならない。
「インパクト」について
村尾さんの投稿を読んで「マジでそのとおりだよな〜」と納得するのと同時に、あれ?と我が身を振り返る。
このスタートアップの役割の定義からすると、LIFT はおそらくスタートアップではない。
なぜそう思ったのだろうか? その理由を少し書いていきたい。
いきなり話が飛ぶが、ソーシャルセクターには「コレクティブインパクト」という概念がある。企業や行政、NPO、市民など、さまざまな分野から様々なバックグラウンドの人が領域を超えて協力し合い、共通の社会課題に取り組むことで生まれる総合的な成果のことを指す言葉だ。
参考:コレクティブ・インパクト : 個別の努力を越えて今こそ新しい未来をつくり出す – Stanford Social Innovation Review Japan
この言葉が生まれる背景として、複合的なあるいは複層的な社会課題に対して単一の組織ができることは限られているという認識がある。現実をちゃんと見つめると手に負えない社会課題が多いからこそ、様々なセクターが協力し合うべきだということだ。考え方としては本当にそのとおりだと思う。
一方で、本来は利害や目的が異なるセクター同士が協力し合うわけだから、コンセンサスを得るためには誰が見ても理解できる指標が必要になる。企業はコストがかかるし、行政は税金を使う。いずれにも説明責任が伴うのだ。
社会課題の解決は、営利企業へのような売上や会員数といった定量的な指標を持てるケースばかりではない。「問題が起きない」と「問題が計測できない」はしばしば同じ顔をしているからだ。だからインパクトがどの程度あったのかという算出がむずかしいし、その行為自体を慎重に行わないといけない。
それでも、コレクティブインパクトを志向した時点ですでにたくさんの人とお金と時間がかかわっているわけだから、たとえば「これができたことで将来的に起こりうるどんな負債を解決したのか?」とか「それによって経済的には(潜在的でもいいから)どれだけのアウトカムを得たことになるのか?」みたいなことを目に見える数字として無理やりにでも示さねばならない。
繰り返すが、これは本当にむずかしい。だから、コレクティブインパクトを算出するためだけに多大なコストがかかったりしている。
これをマッチポンプと嗤うのはたやすいが、これこそが、インパクトがそもそも定量化がむずかしいことの証左なのだろう。
自社にとってのインパクトとは何か
そう考えると、何かの事業をやっている以上、「自社にとってのインパクトとは何か」みたいなことはあらかじめ決めておいたほうがいい気がする。むずかしいもの・曖昧なものは追うことができないし、ましてや達成することなんてできない。
それに、曖昧だと定量化のプレッシャーがすごい。だからといって無理に定量化しすぎると今度は虚無感が襲ってくる。インパクトとはとかくブレやすいものだ。
(…という感じで村尾さんの投稿を読んだあとつらつらと考える時間がつづいたので、この記事を書いているときに思い切って村尾さんご本人に連絡してみた。結論からいうと、彼は最高の営業であると同時に最高の経営者でもあるので、私のそんな懸念はとっくに先回りしていて、Magic Moment にとってのインパクトの定義を用意されていた。さすがである)
さて、Magic Moment がすごいのはわかった(知ってるし)。
では自社にとってのインパクトとは何だろう?
LIFT が金沢に移転してから急に雇用にこだわりだしたのは、シンプルに現在の雇用環境が気になったからである。首都圏はさておき、地方には職業の選択肢が少ない。なぜ少ないかというと、端的に産業が少ないからだ。(他にも要因はたくさん挙げられるが、一言で言えといわれたらこうなる)
だから、LIFT にとってのインパクトの定義をすると、それはつまり雇用を生み出せているかどうかになる。雇用を生み出せるほどの付加価値が自社の事業で創造できているのか、ということだ。
そして単に雇用できればいいわけではなく、それが誰かにとっての新たな選択肢や希望になっていないといけない。
課題意識が雇用と関係している以上、雇用自体が事業の目的の一部になる。そこでは HC(ヘッドカウント)とインパクトはトレードオフにはならず、どちらかというと結びつくものになっていく。
スモールビジネスとしての矜持
誤解がないように繰り返すと、上述の村尾さんの言う「スタートアップが果たすべき役割」、つまり “ビジネスサイズに対して極限までHCではなくインパクトで思考し、小さな組織で大きなインパクトを生み出すこと。” に 100% 同意している。私よりすごい経営者に何を偉そうにと自分でも思うけど、スタートアップとして適切な思考回路だし、適切な定義だと思う。
そして、零細企業が何を言ってるんだという感じだが、LIFT はなるべく雇用にこだわっていきたい。インパクトとHC(ヘッドカウント)は LIFT の定義では密結合しているわけだから、雇用を生み出す事業の創出こそがインパクトなのだ。
これはどっちが優れているとか良いとかではなく、実は根っこは同じなのだと思う。組織のスタイルやフェーズに差異があるにすぎない。どちらも豊かになりたいという意味では同じだ。(という話を村尾さんともした)
同じだけど、役割に照らし合わせたときに Magic Moment は純然たるスタートアップで、LIFT はおそらくそうではない。
スタートアップじゃないとすると、やっぱりうちはスモールビジネスなのかな? というのが冒頭の気づきである。
そうなれば、改めてスモールビジネスならスモールビジネスとしての矜持をもって、LIFT は、我々は、どこへ向かってどうありたいのかを考えつづけなければならない。
こんなややこしいことを考えつづけるのは正直疲れるので面倒くさい。でもきっとやらないといけないんだろう。
そんな気づきを与えてくれた村尾さんに感謝したい。
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以上、2025年の一発目からポエムっぽい投稿で失礼いたしました。本年も LIFT をどうぞよろしくお願いいたします!