Meta広告「詳細ターゲット設定の除外」が利用できなくなることの意味

「詳細ターゲット設定」の除外ができなくなった

Meta広告の「詳細ターゲット設定」の除外適用が、2024年7月29日以降は段階的に廃止になっていくようだ。

この設定をほとんど使わないので発表後もしばらく気づかなかったが、記事を書いている2024年8月時点ですでに新しい広告セットでは詳細ターゲットの除外ができなくなっているし、設定している広告セットはオーディエンスの複製などもできない。(段階的適用なのでアカウントによって挙動は違うかもしれません)

稼働中の設定済み広告セットも、 2025年1月31日 までは引き続き除外できるようだが、その後は使えなくなるらしい。

ちなみにそれ以後はキャンペーンの配信自体が停止する(!) みたいなので、除外設定している広告セットがあるアカウントはご注意くださいませ。

参考: https://www.facebook.com/business/help/458835214668072

ちなみに、詳細ターゲット以外の除外設定には特に影響がないようだし、[オーディエンス管理] の画面でロケーションやブランド保護といったクリティカルな除外は引き続き可能のままである。本件はあくまで「詳細ターゲット」のみが対象になっている。

つまり、除外そのものをさせないわけではなく「詳細ターゲット」の範囲において除外の判断を広告主側にさせないぞという Meta の意思表示だと理解すればよさそう。

除外は RPM のボトルネックの一つ

では、なぜ今回は「詳細ターゲット」が対象なのだろうか。普通に考えると「あまり使われていないのでリソース整理のため」で収まる話なのかなと思うが、せっかくなので少しつらつらと考えてみたい。

筆者は何でも RPM で考えちゃうクセがあるので、こういうのは「詳細ターゲットを除外する機能が RPM 向上のボトルネックになってたのでは?」と一度疑ってみることにしている。

参考: Redditが示す検索連動型広告の可能性

RPM を要素に分解すると上記のようになる。「単価」と「カバレッジ」と「広告枠数」と「広告品質」の4要素で RPM はできている。

Meta はソーシャルメディア広告なので、在庫の主力はタイムラインとインスタント動画(リールなど)になる。もちろん他にも枠はたくさんあるけどタイムラインとリールに比べたらあとはオマケみたいなもので、これらは基本的に1列で画面を専有するので GDN みたいなごちゃごちゃした枠の作り方はできない。結果として枠の数には自然と限界ができてくる。

一方でタイムラインや動画は永遠にスクロールできるインターフェースなので、Facebook や Instagram のアプリ自体にスティッキネスがあれば(≒利用時間が長くなれば)ユーザーの活発度に比例してタイムラインの実質的な広告枠数は自然と増えていく。

仮に MAU に対する広告カバレッジがほぼ 100% だとすると、残るのは「単価」と「広告品質」になる。

「単価」への影響

「単価」が主にオークションプレッシャーによって上下すると考えると、除外によるオーディエンスの制限は1つの広告枠に参加できる広告の数に下方圧力をかけることになる。1つのオークションに参加する広告の数が減れば、オークションの仕組み上「単価」はネガティブに働く。つまり除外できないほうが Meta の収益性は上がりやすくなるはずだ。

「詳細ターゲット除外の廃止」とは、要するにターゲットオーディエンスの範囲を制限する設定自体を外したという意味なので、オークションにとってはプラスに働く。それは結果的に「単価」にもポジティブに作用するだろう。

「広告品質」への影響

続いて「広告品質」。除外すると広告の品質にはどう影響するのだろう。

これを考えるうえで「詳細ターゲット」はどういうものかを改めて確認してみると、Meta の基準でオーディエンスを「利用者層」「興味・関心」「行動」分類したものだということがわかる。

▶を押すとドリルダウンされて詳細項目が出てくる

これらの設定を除外すると、その定義に当てはまるとされるユーザーは、広告オークションの際に除外される。(ユーザー判別の精度はさておきだ)

Meta は近年 Advantage+ オーディエンスなどの自動拡大の仕組みを推していて、Google などと同じように機械学習によってターゲティングがリアルタイムに見直され、オーディエンスの解釈を拡大させていくことを前提としたプラットフォームになっている。

解釈を自動的に拡大させていく場合において、ベースとなるオーディエンスが除外されていれば拡大時のボトルネックになりうる。特にエンドユーザー側の推測による予防的な除外ほど拡大の邪魔をするものはないはずだ。学習するための機会が制限されるわけなので。

Meta広告は購入やランディングページへの着地など、各々の目標(コンバージョン)をベースにした最適化/最大化を入札戦略として設定するため、「誰がコンバージョンしたか」と同時に「誰がコンバージョンしなかったか」の情報を積み重ねている。

その積み重ねに基づいてオークションごとに eCPM をリアルタイムに計算して表示の調整をしているので、オーディエンスの除外によって学習に含められない範囲が大きくなればなるほど学習は制限され、予測の精度が下がっていく。予測の精度が下がれば、目標に到達しやすい人がいても高く評価できなかったり、除外されているのでそもそもオークションに入れなかったりして、別のもっと評価の低い人に入札しないといけなくなる。

「広告の品質」は広告とユーザーのマッチングで決まるものなので除外自体が直接的に品質に影響することはないのだが、除外によってそのマッチングの機会そのものが構造的に奪われやすくなるので、結果的に品質も上がりにくくなるということなのだろう。

Metaによる説明

だから、今回の除外設定の停止は Metaの収益性向上にとって必要な施策だといえる。

とはいえ、こういう決定には広告主からの反発もあるはずだ。Meta は今回の決定に際して以下のような説明をしている。

100%の統計的信頼度…! 強そう…!

上記は同じヘルプページにある注釈だが、「詳細ターゲット設定の除外を使用しなかった場合、使用した場合と比べて、コンバージョン単価の中央値が22.6%低くなりました」という広告主向けの調査結果を載せている。

この説明には気になるポイントが多いのは確かだが(100% の統計的信頼度という言葉の強さとか… あと15件て!?)、それはさておき「とにかく除外させたくないんだな」という想いだけははひしひしと伝わってくる説明ではある。仕組みを考えれば、CPA が下がるのもその通りなんでしょう。

こういうやり方を見ていくと、除外をさせないだけでなく「除外したいな〜と思わせるような情報自体を提供しない」という方法のほうがより効果的なのだと改めて思う。Google でいえば、P-MAX キャンペーンが登場時から詳細な情報を一切提供せず、なるべくじわじわと適用されていくようにインターフェースをデザインしていたことからも、”見せない” ことはプラットフォームのコスト管理上とても重要なのだ。(P-MAX はさすがにブラックボックスすぎて批判が絶えなかったのであとから機能が追加されていきましたが)

これから先に広告セットをつくる人は、「除外できる可能性」自体を考慮できない。こうしてプラットフォームの自由度は上がり、広告主の自由度は下がっていく。

自動化のボトルネックは静かに淘汰されていく

Meta の初期から存在する「詳細ターゲティング」は、Advantage+ が志向していく世界とはほとんど真逆に近い設定である。そう考えると、遅かれ早かれなくなる運命だったのかもしれない。

とはいえ、それにしてもいよいよ来たかという感じはあるし、こういった動きはおそらく変わらないだろうという軽い諦観みたいなものもある。実際にそれがそれほど使われていなかったとしても、選択肢自体がなくなるのはまた別の話で、やはり運用側からすると説明責任が放棄されているようで怖いものだ。

自動最適化に対して少しでもネガティブな影響がある機能や項目はこれからも徐々に静かに削られていくだろう。それは Meta にかぎらず Google などもみんなそうだ。プラットフォームは常にやりすぎる生きものなので、過剰な制限にはお金を出している側がしっかりフィードバックしたほうがいいし、防衛策も講じないといけない。

リリース自体はとても小さいけれど、自動化の趨勢を示唆するような機能更新だなと思います。