Etsyの外部サイト広告の仕組みを見て、プラットフォーム集客の責任について考えさせられた話

Etsy × Google無料リスティング

2022年10月14日、世界最大級のハンドメイド作品マーケットプレイスである Etsy(エッツィー)は、自社に掲載するショップの作品を Google の無料商品リスティングへ掲載すると発表しました。

参考リンク

Etsy はこれまでも集客のためにショップの作品を広告として配信しています。 Google のショッピング広告はその筆頭として活用されていましたが、今回の発表では Etsy としての広告の範囲を無料リスティングにまで展開するとのことです。

Etsy のようなプラットフォームは、セラー(ショップ)とバイヤー(購入者)のネットワーク効果でトランザクションが増えることにより手数料収益が上がっていくモデルで設計されていますので、購入意思のある新たなバイヤーを獲得していくことはビジネスの生命線と言えます。

Etsy のアクティブセラー(ショップ)の数は750万以上と言われていますので、これらのショップから販売される製品が(仮に全てではなくても)無料リスティングに展開されることのインパクトは大きそうです。トラフィックがどれだけ増えるのか気になりますね〜!

外部サイト広告(Offsite Ads)という仕組み

今回のリリースを見てみると、無料リスティングへの展開についてはショップ側の負担は一切ないことが強調されていることに気づきます。

以下の一文には「外部サイト広告」という Etsy 内のプログラムを通じて購入されたときに払うお金もいらないよ!と書いてあります。(↓太字は筆者による)

There’s nothing you need to do—and it’s totally free!

What do you need to do? Nothing! Listings from shops in the United States that use Offsite Ads and meet the eligibility requirements may be featured in these placements. 

Your listings’ details, including images, prices, shipping info, and policies will be displayed on Google. When a shopper purchases one of your listings through Google, it will appear in your Orders on Etsy. You won’t pay an Offsite Ads fee on those sales. 

何もする必要はありません。-しかも完全無料です!

何をすればいいか?何もありません! 外部サイト広告を利用し、条件を満たしたアメリカ国内のショップの商品リストがこれらのプレースメント(≒Googleショッピングの配信先)で掲載されることがあります。

画像、価格、配送先、ポリシーなど、リスティングの詳細がGoogleに表示されます。買い物客が Google を通じて出品商品を購入すると、Etsy のショップ注文として表示されます。この場合外部サイト広告の料金は発生しません。

https://community.etsy.com/t5/Announcements/Now-shoppers-can-find-and-purchase-Etsy-listings-directly-on/m-p/139994687#M1768

ここで、Etsy の仕組みについて知らないと「外部サイト広告ってなんぞ?」となります。広告主が支払うということは、Etsy 内のオーディエンスデータを利用する Amazon DSP みたいなものを想像してしまいますね。

外部サイト広告は Etsy の集客広告には違いないのですが、実際はショップオーナーには一切の管理権限がなく、 Etsy が集客した広告トラフィックによってショップ側に売上が発生した場合は、その売上に応じて広告手数料が発生する、という仕組みになっています。平たく言えば「外部サイト広告 = Etsy によるアフィリエイト広告」ですね。

なお、ある程度の規模のショップオーナーは外部サイト広告をオプトアウトできません。過去 365 日間に 10,000 米ドル以上を売り上げたショップは Etsy に店舗を構えている間は参加必須というプログラムになっています。なかなか厳しいですね。

外部サイト広告の要件(簡易版)

年間売上10,000米ドル以上年間売上10,000米ドル未満
広告の管理できないできない
手数料広告経由売上の12%(上限100米ドル/回)広告経由売上の15%(上限100米ドル/回)
参加必須選択可
過去30日以内のトラフィックが紐づくそうです

年間(正確には過去365日)の売上が10,000米ドルを超えるまでは外部サイト広告はオプトアウトできますが、売れてくると広告手数料は必須になりますので、通常の掲載料(0.2ドル)、取引手数料(6.5%)、Etsyペイメントの決済手数料(3.5%前後)と合わせると、売上の約4分の1 前後が経費として自動的に引かれていくことになります。

Amazon も FBA や倉庫保管料などを含めると手数料は3割以上になりますので、それと比較して Etsy が高いとは言えませんが、Etsy はハンドメイドということもありショップからの直接配送が基本だと考えると、外部サイト広告経由は相対的に割高になる印象です。

手数料だけで 25% ということは、単体での粗利率が25%以下の商品は売っても利益が出ないということになるため、ハンドメイド作品がいくら一物一価寄りの性質を持っているとはいえ、どうしても高額な経費は販売価格へ反映されることになります。パッケージ消費財ではないからこそ他のマーケットプレイスと差別化できているのだと思いますが、それにしてもなかなか強烈な仕組みです。(せめて商品の除外や選択ができれば…)

手数料の高騰にはショップからの反発も目立ってきており、近年ではストライキなども起こっているようです。販売する場所を変えずにストライキを起こすというショップの反応は、Etsy 以外では代替しにくいハンドメイドという分野だからこその動きなのかもしれません。

参考リンク

今回の Google無料ショッピングへの拡張が手数料批判の鎮静剤になるのかどうかは、無料ショッピングがどれだけトラフィックに寄与するか次第かもしれません。Google にとっても大事な取り組みになりそうです。

プラットフォームの集客はどうあるべきか

Amazon が長きに渡って Google の最大の広告主であるように、プラットフォームは集客への投資が生命線になります。

以下は 2021年の Google の推定広告主ランキングですが、Amazon は何年連続かもはや分からないくらい、常に Googleにとって世界最大の広告主として鎮座しています。ちなみに Etsy は推定で55位だそうです。(額は Amazon のちょうど1割くらいでした)

参考:https://seattleorganicseo.com/top-100-biggest-spenders-on-google-ads-2021/

Google などの外部の広告プラットフォームからの集客コストが、自社に掲載されている商品が売れた際の利益を一定水準(≒許容できる売上高広告費比率)より上回っていれば広告は継続できます。広告主ランキングの上位に SKU が極端に多い Eコマースプラットフォームが並んでいるのはさもありなんという感じですね。

ここで気になるのは、これらのEコマースプラットフォームの集客における広告についての考え方です。

Amazon が自社の広告宣伝費としてキーワードと商品ごとに ACOS(売上高広告宣伝費率)を厳しく管理し自動的に最適化しているのとは対照的に、Etsy はショップを半強制的に広告主化し、広告がアトリビュートした売上に連動した手数料を徴収する仕組みを採用しているため、ショップ側に負担を強いる設計になっています。集客はショップの責任だ、と明言しているようにも取れます。

しかも、Etsy にとってはカテゴリに関係なく手数料率が一定なので、とにかく ACOS が 12%(or 15%)を下回ればOKというシンプルな設計になっています。Amazon ほど細かく管理するインセンティブがありませんし、広告と売上の紐付けもブラックボックスです。

この集客設計が Etsy というマーケットプレイスの健全な発展にどう影響するのか?が個人的に気になっています。

Etsy 避難民の受け皿の一つである Shopify を例にとると、彼らは2021年に発表された Online Store 2.0 というプラットフォームの大幅刷新において、アプリ売上のレベニューシェアの比率を(デベロッパー側に有利になるように)大胆に刷新しました。システムのアップデートに起因するアプリ側の開発・修正コストを実質的に肩代わりすると同時に、新規参入を促すという狙いだったと思います。プラットフォームとしてお手本のような打ち手です。

Shopifyはアプリ売上の手数料を事実上撤廃したことで新規参入を促した

Etsy も Amazon も、内部にアプリマーケットがないシンプルなマーケットプレイスですので、バイヤーが集まっている間は基本的に生かさず殺さずという絶妙な手数料率で維持していくという戦略だと思います。

そう考えると、Google無料リスティングは2020年の10月には既に登場していて、Etsy 側では既に有料リスティングで Google Merchant Center (Manufacturer Center かもしれない)への接続が済んでいたことを踏まえると、2年後の2022年になってようやく無料リスティングを開始するのは Etsy側に別の事情があったのではないか?と勘ぐってしまいますね。無料リスティングのインパクト次第では手数料率に影響しますので。

一方で、仮にショップ側の負担が減れば新規参入が促され、魅力的なショップが増えたり価格やサービスに転嫁されることでバイヤー側にもモメンタムが生まれるはずです。今回の Google無料ショッピングへの拡大にともなって、Googleユニバースに表示される商品バラエティが増えることにもつながるので、施策が相互に影響しあうクロスネットワーク効果が生まれるのではないでしょうか。

プラットフォーム集客は誰の責任なのか? 売れれば売れるほど負担が増えていく設計はどこまでサステイナブルなのか? 手数料に見合うサービスの提供とは一体何なのか?

どういう戦略が正解だったかは未来にならないとわかりませんが、今回の Etsy の無料リスティングへの拡大(の対応の遅さ)は、図らずもプラットフォームが自身の集客の責任をどこに設定するかで収益設計にダイレクトに影響してくる、という構造を考えさせられる発表でした。

日本では2022年現在のところ新規の Etsy アカウントは開設できませんが(2024年1月更新:2023年末から日本でも Etsy ペイメントが利用できるようになり、アカウント開設可能になったようです!) Creemaminne といった同様の日本のプラットフォームが収益性をもって拡大する際にどういう設計をしていくべきなのか? Etsy の外部サイト広告はそのベンチマークになりうる事例だと思います。