「ランディングページの利便性」が強い指標になってきた?

2025年2月6日に、Google が検索連動型広告の品質判定の構成要素の一つであるランディングページの利便性について新たなアップデートがあったことを発表している。

タイトルを直訳すると「検索広告とランディングページナビゲーションの重要性」

ちなみに、上記の記事は未来にロールアウトされる機能の予告ではなく、すでに実装されている機能改善を説明したものになっている。なので Google 広告アカウントにはもう適用済みのようだ。

であればちゃんと読まないとあかんということで読んでみた。発表の内容を雑に要約してみると以下のようになる。

  • ランディングページのネガティブな体験が改善するよう、新たな予測モデルを開発したよ
  • このモデルはランディングページのナビゲーションの品質を広告品質にフィードバックするためのものだよ
  • 具体的には、意図しないリンク先になっていないかどうかや、不要なナビゲーションになっていないかどうかを予測する精度が上がってるよ
  • そういうランディングページの広告が表示されにくくなったことでユーザーの利便性が向上したよ

要するに、これまでも評価されていたランディングページの利便性を予測する精度がさらに上がったということのようだ。

記事では、ページ内の「ナビゲーション」について具体的な例を示した言及をしていることから、コンテンツの中身はもとより、ページ内のナビゲーションの質だったり、検索意図とナビゲーションの関連性についての改善要素が大きいということなのだと思われる。

ナビゲーションと広告特化型LPの関係性

では、ナビゲーションについて Google はどういう例を示しているのか。具体的に見ていきたい。

以下は悪い例として提示されている挙動である。(左右の<>矢印でスクロールします)

ログインページを探しているユーザーが販促オファー付きの検索広告をクリック

ナビゲーションがないのでユーザーはログインできない

仕方ないので検索結果に戻り、ログインページを探す

続いて、以下は良い例として提示されている挙動。

ログインページを探しているユーザーが販促オファー付きの検索広告をクリック

販促オファーだけでなくログインのボタンも見つけやすい

販促用のLPからでも無事ログインすることができた

上記 2つの例で、「ナビゲーションのない LP に行き詰まったユーザーが戻るボタンを押す」ような挙動はマイナスの体験であり、ナビゲーションによってユーザーの意図(この場合はログイン)が達成された挙動に対してはプラスの体験であることが示されている。

これ自体は言われてみれば当たり前のことのように思える。が、ふと冷静になってみると、こういう状態になりがちな設計の通販サイトや SaaS の広告は意外と多いことに気づく。いわゆる「CTA を押させることに特化した選択肢のないガチガチの広告特化型LP」はこのケースに該当することが多いのではないだろうか。

言い換えれば、ゴリゴリに最適化された LP はこれまでよりも評価が下がることを示唆しているとも取れる。

記事の末尾にも、以下のような一文がある。(日本語は筆者による訳)

If you are an advertiser, and your landing pages are not currently navigable, we recommend improving navigation on your site to enable people to get where they want to go.

あなたが広告主で、ランディングページにナビゲーションがない場合は、ユーザーが目的の場所にたどり着けるようにサイトのナビゲーションを改善することをお勧めします。

Search ads and the importance of landing page navigation

これは素直に読むと「ナビゲーションのない LP はダメよ」と言っているに等しいではないか!

というわけで、今回の Google の発表は、「ユーザーに選択肢を与えないようナビゲーションを最小限にする(あるいは無くしてしまう)ような方法論はユーザー体験を損ねる」という見解を公に示したたと見るのが妥当なのかもしれない。

検索意図がナビゲーションに与える影響

一方で、これには「なんでもかんでもナビゲーションがなければならぬというのは乱暴だ!」という意見も出てきそうな気がする。

「広告に最適化された LP はサテライト(衛星)のようなものだから本体サイトと敢えて接続しない。だからナビゲーションは不要なのだ!」という考え方にも一理あるだろう。

ナビゲーションを排した広告特化型の縦長 LP は、これまでの長い LPO の変遷の中で一定の成果を出しつづけてきた。実際の現場の肌感覚でもそう思うし、ユーザーの選択肢を増やすことは必ずしも CVR にポジティブな影響を与えないという調査結果もある。説得が必要な複雑なサービスだったり、勢いで衝動買いさせたい非必需品であればあるほど、没入的なストーリーの LP のほうがユーザーの反応を得やすいのは事実だ。

今回の Google のアップデートは、こういった LP 側の努力も無効化してしまうのだろうか?

ここからは筆者の予想なので何か裏付けをとったわけではないのだが、①今回の発表は「検索連動型広告」に限った話であるということ、②検索意図に沿ったナビゲーションが大事だと説明されている(≒意図とナビゲーションが合わないときにマイナス評価になる)ことという 2点が、LP 内のナビゲーションを考えるうえでのヒントになるのではないかと考えている。

画像と説明の検証

というわけで、記事をもう少し深堀りしていきたい。まずは、記事の中で例示されている画像と説明をよ〜く見てみよう。

悪い例(左)と良い例(右)の条件は同じ

上記のとおり、悪い例も良い例も、検索クエリは同じ [advertiser online] になっている。

画像の検索結果に表示されている広告文を読むと、どちらも見出しの 1行目が「Advertiser.com」なので、この [advertiser online] という検索クエリは、サイト名を意図するいわゆる指名ワードだと考えられる。(ちなみに、検索クエリを [advertiser.com] としてしまうとブラウザがドメインだと判断して直接飛んでしまうから、検索結果として例示するために [online] をかけ合わせているのだと思います)

画像はあくまでも例なので、要するにこのケースでは、あなたの会社やサービスの指名クエリでよく起こっている事象ですよ、ということを示したいのだと思う。

そしてそれぞれ悪い例と良い例が示され、指名検索をした既に会員になっているユーザーがナビゲーションの無い LP に飛んでしまったことで目的を失い、ブラウザの戻るボタンなどで検索結果に戻っているのは悪い例で、画面の右上にログインボタンがあるので既存のユーザーであっても検索結果に戻らずに済むのは、ユーザーの目的は無事に達成されたとして良い例とされている。

この一連の説明から察するに、おそらく Google は指名クエリのようなユーザーの意図が明確な検索行為であればあるほどナビゲーションの有無による目的との乖離が起きやすいという傾向を、広告としての評価に組み込みたいのだと思われる。

検索連動型広告は、検索意図(クエリおよびその種別)に対して広告ランクの閾値を満たした広告が表示されるしくみである。広告を見たユーザーの期待値の結果としてクリックおよびその後の LP 内での挙動が変化すると考えれば、期待値が明確な指名クエリの方が、そうでない曖昧なクエリに比べてナビゲーションの有無が挙動に影響を与えやすいということなのだろう。広告ランクとユーザー体験の差分を補正したいという意図があるのだと推察できる。

ヘルプページも更新済み

今回の更新は、公式の広告ランクの説明ページなどでもすでに更新されている。

広告ランクについては研修などでも使うのでたまたまスクリーンショットを撮っていた。なのでビフォーアフターの比較ができる。

(余談だが、筆者は以前「ヘルプを読め!の正体」という記事を書いたことがあるくらい、ヘルプページは大好物です。)

2024年6月と2025年2月の比較

赤線のところを比較してみると分かるが、「広告とランディングページの品質」と題された項目にはだいぶ説明が追加されている。

「クリックされた広告クリエイティブに基づくユーザーのランディングページに対する期待値」や「ナビゲーションのしやすさ」などの言及が今回の更新を反映した部分のようだ。

ここで少しランディングページの評価について振り返ってみたい。広告ランクに影響する要素である広告品質は「推定クリック率」「広告の関連性」「ランディングページの利便性」で構成されているが、検索クエリと広告がぴったり合えば合うほど推定クリック率や関連性は高くなるから、クリック後を評価する「ランディングページの利便性」の影響度はどうしても相対的に低くなりがちだった。

実際、品質評価にランディングページの利便性が導入された当時(2006年末頃だったと思う)は、あくまでペナルティ的な扱いというか、リンク先ページのクオリティが著しく低い場合に検索体験が損なわれてしまうのを補正するために、品質のブレーキ的な役割を担っていたと記憶している。

現在ではペナルティとしての要素だけでなく総合的な評価になっているが、今回の更新を見ると、ページスピードやデバイス別表示の最適化のようなスペックとしての評価だけでなく、クリック後のユーザーの挙動を AI によってモデル化し、実際の傾向から利便性を評価していく流れになってきたのだと考えられる。

ちなみに、ヘルプには「検索品質シグナル」という項目も追加されているが、これはどうやらオーガニックでの検索品質評価プロセスを広告側にもフィードバックする仕組みのようだ。

広告ランクの閾値はクエリによってオークションごとに変動するが、それは例えばオーガニックで十分に検索意図を満たす(≒自然検索結果の予測クリック率が高い)場合に有料検索に必要な広告ランクの閾値(下限)が引き上がる1 ため結果的に広告が出にくくなる、という動きがあるように、検索エンジン自体が SERP(検索結果)全体の評価が最大化するように設計されている結果である。

つまり、「検索品質シグナル」を加味するということは、オーガニックでの評価も考慮したうえで広告の LP も評価するぞという意味になるはずだ。有料(検索連動型広告:PPC)であろうが無料(オーガニック:SEO)であろうが、欲しい情報、かつ質の高いページへなるべくストレスなく誘導することが検索エンジンの価値なのだから、そういうユーザーフレンドリーな構造をより重要視していくぞという宣言でもあるのだろう。

  1. 他にも検索テーマなどの判断も総合的に加味される ↩︎

結局は「検索意図」次第

今回のアップデートはあくまで検索連動型広告に限定した内容になっている。検索である以上、ユーザーの意図に合うような広告を出すためにキャンペーンや広告グループを設計するのが広告主の務めなので、マーケティングにおける検索広告の比重が高い企業ほどちゃんとした設計をしているし、LP にもリソースを割いているはずだ。

逆説的ではあるが、そういう LP にリソースを割いている企業ほど、今回の例に該当しそうな「ナビゲーションを極力排除した広告特化型 LP」を使う傾向があるように思える。ユーザー意図に合うように広告キャンペーンを設計していながら、一方でそれを意図的に無視するかのように LP での選択肢を減らして囲い込むことで予測 CVR を上げるという方法論を採用しているのではないだろうか。

それが今後も機能するかどうかは、結局は「検索意図」次第なのだろう。(指名ではなく一般的な商業クエリであればユーザーの挙動が変わり、評価も変わるはずだ)

単純なコンバージョン率だけではなく、自分が一人のユーザーだったらどう感じるか、クリック後の挙動は実データではどんな傾向になっているのか…など、考えることはたくさんある。今回のランディングページ評価の更新は、定性と定量のあいだを行き来しながら企業とユーザーのあいだを取り持つような、本来の検索マーケティングに回帰していくためのステップなのだと捉えていきたい。