ここ最近では一番の読書でした。個人的には自己啓発書100冊読むより(読まないけど)、この一冊でよいと思えます。
コロナ禍、特に緊急事態宣言が頻発されていた2020年は、「なんだか出来のわるい SF みたいだな」と思いながら毎日を過ごしていました。
そのくせ SF について何も知らないといううしろめたい思いもあって、仕事の合間に星新一を読むことにしました。ショートショートは一話が短いので忙しくても読めるし、『安全のカード』のようなシニカルな戯曲は当時の気分をうまく代弁してくれるようで、精神的にも落ち着くことができたからです。
星新一といえば日本のサイエンス・フィクションの大家であり、ショートショートの魁ですが、作家としてデビューする前は少しだけ父親の経営していた東証一部上場企業を継いで社長だった経歴がある、と知ったのもこの頃でした。
ふと古本屋で見つけて手に取ったものの積みっぱなしだったこの本は、星新一がその実父である星一(および祖父の喜三太)について書いた伝記小説です。
夏の課題図書として定めて読んでみましたが、酷暑で夏バテの身体でも、読後には不思議な元気が出ました。本はちびちび読むのが好きなのですが、一気に読んじゃいました。
星新一の文章がうまいのは「八百屋には野菜が売っている」というくらい自明なことなのでわざわざ言うまでもないですが、だからといって伝記物が常におもしろいかどうかは、八百屋の野菜ほど自明なことではありません。ましてや自分の父の伝記は他人の伝記とは比べものにならない難しさを伴う作業だったはず。
それを、ショートショートの文体と同じような乾いた距離感で、読者の心を掴んで離さないものに仕上げる。文学とはかくあるべしと思います。
私も努力しなきゃな。