YouTubeの「インストリーム広告」が「スキップ可能広告」に変更になった理由であるAdalyticsのレポートを解説(&動画キャンペーンの設定も見直そう!)

2023年7月、Google は Display & Video 360(以下:DV360 )で使われる動画広告の「インストリーム広告」を「スキップ可能広告」という名称に変更しました。

 

参考リンク

YouTube インストリーム広告フォーマットの名称をスキップ可能広告に変更

ディスプレイ&ビデオ 360では、広告フォーマットをより正確に表すため、YouTube 広告フォーマットの「インストリーム広告」の名称を「スキップ可能広告」に変更しました。

キャンペーンの作成や管理のワークフローは変わりませんが、チーム内で新しい名称を共有されることおすすめします。オフライン レポートと構造化データファイルのエンティティでは、引き続き「インストリーム広告」が使用されます。

https://support.google.com/displayvideo/answer/13840246?sjid=6888869415296411871-NA

 

この「スキップ可能広告」は、現時点で DV360 でのみ適用される名称のようです。既存の Google Ads 内の YouTube 広告・動画キャンペーンには(2023年8月時点で)変更はないとのこと。

この名称変更について Google は「既存のYouTube広告フォーマットと、新たに登場するスキップ不可能な広告オプションとを区別するためのものだ」と説明しています。

ですが、この変更には、上記以外の別の背景もあるようです。

Adalytics 「インストリーム広告はインストリームではない」

調査会社の Adalytics が、2023年6月末にあるレポートを発表しました。

このレポートは発表直後から大きな話題となりました。それは「TrueView インストリームとして配信される YouTube 動画広告の大部分が(YouTubeではない)第三者のウェブサイトやアプリに掲載され、かつそれらは Google の設定している基準を満たしていない」という内容を伝えるものだったからです。

参考リンク

 

このレポートは Google が YouTube を利用する広告主を欺いていることを示唆しており、報告書という体裁をとりながらも実質的な告発になっていました。そして、この内容を受けて翌 7月には広告主による Google への集団訴訟へと発展しています。

読みはじめるとすぐ気づきますが、このレポートはウェブ上で読める1つの記事としては気が遠くなるほど長いです(本当に長いです…)。そして、執拗なまでに論拠に論拠を重ね「軽率な推論や反論は一切認めない」という執念すら感じる、圧巻の内容になっています。

この表現は語弊があるかもしれませんが、その筋の人(?)にとってはとにかく「面白い」の一言です。時間があるときに一読をお勧めします。

 

知らずにパートナー配信。その多くは基準違反。

とはいえ長すぎて読むのはたいへんですので、忙しい現代人に向けてレポートの論旨が端的にわかる箇所をいくつかピックアップしてみます。

YouTubeに出しているつもりが、ほとんど不適切なパートナーサイトだった

まずは論旨の核になる部分です。以下の円グラフは、ある大手のインフラ企業の TrueView インストリーム動画広告の配信先の内訳です。

全体の 73% が無効な枠!?

この企業の場合、TrueView インストリーム動画広告に使われた費用のうち、YouTube.com または YouTube のアプリに費やされた金額は全体の 16% 程度で、費用の大部分は Google 動画パートナー (以下:GVP) ネットワークのウェブサイトやモバイルアプリに費やされていたとのこと。

加えて、円グラフの赤い部分に「Invalid(無効な)」と書いてあるように、全体の7割を超える GVP のモバイルアプリとウェブサイトは、TrueView インストリームの定義に則さない無効な配信先でした。具体的には「アウトストリーム」、「ミュート再生」、「自動再生」、「インタースティシャル」および「非表示」の広告スロットだったようです。

TrueView インストリーム動画広告の定義は、基本的に動画の前後や途中で再生されることを想定したフォーマット、かつ30秒以上、あるいは何かしらのアクションを行った時点で視聴とみなす広告のことを指します。「Invalid(無効)」ということは、これらの基準を満たさないということです。

インストリーム動画広告の説明 抜粋

レポートでは多くの広告主の協力のもと、膨大な事例や技術的な検証をもとに、配信先がなぜ「Invalid(無効)」なのかが解き明かされています。

動画パートナーへは自動的にオプトインされる仕様

長いレポートの中にはいくつかの大きな論点がありますが、そのうちの一つが、仮に多くの GVP が Invalid(無効) だったとして、なぜこういったパートナーサイトやアプリに多大な広告費が使われてしまうのか?という点です。

これには明確に背景があります。どこかの時点から、Google 広告で新規に動画キャンペーンを作る際に、キャンペーンの設定「Google ディスプレイネットワークの動画パートナー」がデフォルトで ON になるように改変されたことが引き金になっていると思われます。

キャンペーン > ネットワーク のチェックボックス

ここにチェックが入っていると、動画を受け入れている GVP ネットワーク(≒AdSense 枠)に TrueVeiw インストリーム広告が表示されることになります。これらの枠がインストリームの基準を満たしてないじゃないか!ということで問題になっているわけですね。

デフォルトで ON なったのがいつなのか、正確な日付は分かりませんが、2019年7月22日の発表では、TrueVeiw アクション広告(当時)を作成する際にはデフォルトで GVP がオプトインされるようになると記載されているほか、2021年9月30日以降はアクションキャンペーンに限って GVP のオプトアウトができない(必ずネットワークにも掲載される)など、動画のインベントリを YouTube の外へと拡大していこうとする方向性は以前からあったように見えます。

2023年現在は、新規に動画キャンペーンを作ると自動的に GVP にオプトインされた状態でスタートする仕様になっているので、YouTube にのみ広告を配信したい場合は、この GVP ネットワーク設定を明示的にオプトアウト(上記の画像と同じようにチェックボックスを外した状態)する必要があります。

GVP がどんなもの(≒ Invalidが多い)であるかの予備知識がないとオプトアウトの必要性に気づきにくいので、ON のままになっている広告主が多いだろうことが伺えますし、だからこそ Adalytics の告発につながったと言えるでしょう。

大手の広告主が代理店からプレースメントレポートを受け取る機会は少ないだろうと考えると、膨大な金額が Invalid なアウトストリームに費やされたとしても、その問題に気づきにくいのはある程度仕方がないのかもしれません。

余談ですが、2019年7月当時の MARTECH の記事の末尾には以下のようなコメントがこっそり書いてあり、当時から GVP の効果は疑わしいと報じられていたようです。身も蓋もない書き方が笑えます。

Grammarly, which is a regular YouTube advertiser, said it saw 20% more installs of its writing assistant app at an 8% lower CPA after opting into Google video partners.

通常の YouTube 広告主である Grammarly は、Google 動画パートナーにオプトインしたことで、自社アプリのインストール数が 8% 減り、CPA が 20% 上昇したと発表しました。

https://martech.org/trueview-for-action-inventory-extends-to-google-video-partners/

↑やる前から危ないって書いてありますね。

ちなみに筆者は自社で運用しているアカウントは必ずオプトアウトしているので実際の結果は体感したことがないのですが、Adalytics のレポートにある広告主のリストや事例を見ると、(それぞれ何千万も広告費を払っていて、かつブランドセーフティにはいつも神経質な大手広告主が、揃いも揃ってなぜこれに気づかなかったのか…)と思ったりはしました。

代理店にも飛び火

当然ですが、こういったレポートが出れば代理店も他人事ではありません。

Adalytics のレポートはフォーチュン500(≒有名大企業)を網羅しており、これらの企業のほとんどは大手の広告代理店経由で広告の買い付けをしているからです。つまり配信設定のほとんどは代理店が実施しているはず。

実際に、以下のような記述があり、担当している代理店が晒されています。

During the course of this study, it was observed that, for some TrueView skippable in-stream ads, one can observe Campaign Manager 360 tracking pixels inside of the source code of TrueView VAST tags.

この調査の過程で、一部の TrueView スキップ可能インストリーム広告では、TrueView VAST タグのソース コード内にキャンペーン マネージャー 360 のトラッキング ピクセルが存在することがわかりました。

https://adalytics.io/blog/invalid-google-video-partner-trueview-ads

レポートでは Interpublic Group のトレーディングデスクである Matterkind や、オムニコムグループの Accuen、Canvas Worldwide などをはじめとして、超有名代理店が軒並みリストアップされています。

レポートを通読してみると、広告主をめぐって 「Invalid な配信面に広告を出すことを推奨している Google」と、「その推奨設定のまま配信して無効な視聴を増やしてしまった広告代理店」という構図が浮かんできます。

両社はおそらく共謀しているわけではないにせよ、結果的に広告主にとって不利益な状況をつくっているのでは?という指摘になっているのです。

動画広告の設定は確認しておこう

冒頭で触れたとおり、広告主は 2023年の7月に Google を相手取って集団訴訟を起こしています。「自身で定めた基準に違反するサイトやフォーマットで広告を掲載することで望まない再生(視聴)をつくり出して課金し、不適切で非良心的な設定のために割高な料金を支払わざるを得ない状況は、実質的に損害を与えたに等しい」という訴えです。

Google は Adalytics のレポートに対しては反論していますし、訴えられている以上、その内容を認めることもないと思いますが、一方で、同じタイミングで DV360 のみ「インストリーム」という表記を捨て、「スキップ可能広告」と名前を改めました。これは何を意味するのでしょうか。

想像ですが、Adalytics のレポートの中で大手代理店が軒並み名指しで批判されているため、レポートの指摘は認めないにせよ、DV360 を使う大手代理店のエンゲージメントが下がらないよう、政治的にどこかで落としどころを設定する必要があった、ということなのかもしれません。

もちろん、多くの広告主が使う Google 広告の中ではインストリーム広告の名称は引き続き使われますので、もし字義どおり YouTube にのみ出したい場合はキャンペーンの設定から「パートナー」のチェックボックスが ON になっているか、OFF になっているか、念のため見直してみることをおすすめします!