Googleの最適化案「重複するキーワードを削除」の機能変更は、マッチタイプがなくなる世界線がよぎるので少しだけ不安になる

同種のキーワードは異なるマッチタイプでも重複と判断するように

2023年1月4日、Googleは ”最適化案「重複するキーワードを削除」の機能向上について” と題したメールで、Google広告の最適化案の自動適用を設定している広告主に対し以下のような適用ルールの更新を伝えています。

メール本文の一部を抜粋します(黄線は筆者による):

変更内容

最適化案「重複するキーワードを削除」を使用すると、現在は、同じ広告グループ、リンク先、入札戦略、マッチタイプ内で重複しているキーワードが検知されますが、1 月 19 日からは、異なるマッチタイプ間でも検知されるようになります。

(中略)

今回の変更の理由

重複キーワードとは、他のキーワードと似通っていて、それよりも成果が低い、または一致の範囲が狭いキーワードのことです。重複キーワードを削除し、さまざまなマッチタイプで指定されているキーワードをまとめることで、アカウントが管理しやすくなります。掲載結果に悪影響を与えることはなく、広告は引き続き同じ検索語句に対して表示されます。

Google Ads からのメールより抜粋

この通達によると、最適化案を自動適用している広告主は、1月19日以降、同一広告グループ内に同じキーワードで複数のマッチタイプが存在している場合、それらのキーワードのどれか(大抵はフレーズ一致または完全一致)は「重複している」と見なされて削除されるようです。

これまでも上記の自動最適化案自体は存在していましたが、「重複するキーワード」の定義は「同じマッチタイプ」かつ「(より成果があがっている)同内容のキーワード」が対象になっていました。今回の変更により、油断するとフレーズ一致や完全一致は削除され、部分一致のみにされてしまうとのこと。

この更新が気になる3つの理由

今回の変更は、影響範囲としては(自動最適化を採用しているアカウントはそれほど多くないので)限定的だと思われるものの、今後のことを想像するとすこしうんざりします(後述)。

また、Google の進め方も少し問題があるように感じています。そう感じる理由は以下の3点です。

1:重大な変更だと気づかないアカウントが一定数いそう

「最適化」という言葉には力があります。じゅうぶんな知識や経験がなくこういう強い言葉に向き合える広告主ばかりではありませんし、「重複しているキーワードを削除」という文字列は一見すると無駄を省くだけのように読めるため、特に思案する必要を感じないように思えます。

実際には、重複キーワードが(計測以外で)悪影響を及ぼす可能性よりも、削除されることによる影響のほうが大きそうです。「重複」とは言ってみればどちらかのキーワードがトリガーになるだけですし、仮に同じキーワードで結果に差異が出ているのであればそれは他の変数(広告やクエリなど他のシグナル)が違うということなので、必ずしも一方を削除してまとめることが正だとは限らないように思います。ではなぜ強制的に削除する必要があるのか?

2: 実際にはパフォーマンスに影響を与えるから

Googleのメールでは「掲載結果に悪影響を与えることはなく」と記載されています。ですが、広告主がマッチタイプの異なる(具体的にはフレーズ一致と完全一致)を加えるのは、クエリの幅を意図的に制御することによってユーザーと広告との関連性を維持し、コストを低く抑えるためであることが多いです。その場合はおそらく拡張CPCで上限単価のレイヤリングをしていることでしょう。

今回の変更はこういった運用上の意図は無視して一括で部分一致化することなので、アカウントの設計にもよりますが、オークションに参加するクエリの幅は変化し、パフォーマンスは多少なりとも変動することが考えられます。Google のことだけ考えればチャレンジするクエリが拡がることでカバレッジが増えることが想定されます。そしてそれは広告主のコスト増につながりますが、管理画面では「学習中なので変更はお待ちくださいね」というアラートが待ち構えています。なるほど完璧な作戦っスね───っ。

3: 後出しジャンケンだから

いちばんズルいなと思う点はこれです。今回の変更はこれまでとは(特に中小のアカウントにとっては)少し違うインパクトをもたらすものではないかと想像できますが、そういった類のものを「既にある最適化案の変更」というかたちで提示し、かつオプトアウトしない限りオプトインするように仕向けています。(新しい最適化案として提示するのであればまだ分かるのですが)

同じ名前のルールが時期によって挙動が変わってくるのは歴史のあるプロダクトではある程度仕方がないことかもしれません。ただ、であればオプトアウトをデフォルトにしてほしいところです。

(いかん、徐々に攻撃的な口調になってしまいました…)

マッチタイプのない世界線の存在を感じてしまって憂鬱になる

2010年代の後半以降、自動入札の隆盛とともにマッチタイプは基本的に拡張の一途をたどっています。2021年に絞り込み部分一致がフレーズ一致に統合されたのが象徴的ですが、こういった技術の進展にともなう更新は必然なので基本的には望ましい。昔の「何万キーワード入れた自慢」みたいな世界を笑い話にできる現代の運用は本当にありがたいです。

問題は、システム優位がエスカレートしてエンドユーザー側に選択肢がなくなることだと思います。

たとえば、2022年の10月に話題になったキャンペーン設定における「部分一致キーワード」のベータテストは、そのキャプチャからマッチタイプのない(部分一致しかない)未来を予感させるものでした。界隈がザワついたことも記憶に新しいですね。

参考リンク

 

実際には、「マッチタイプがなくなるわけではなく、あくまでワークフローの簡素化をテストするためのベータ版である」という回答が Google 側からあったため、本件はその後話題に挙がることはなくなりました。

Ginny Marvin のツイート

ただ、この一件だけを取り出してみても、Google が部分一致を強く推奨し、可能であれば他の選択肢を排除していきたいという姿勢は見え隠れしています。本音はこっちなんだなと。

Google は新しい技術を段階的に適用するのと同時に旧来の機能を廃止する方法でプロダクトを進化させてきました。気づいたら拡張テキスト広告もいつの間にかなくなってしまいましたし、同様のことがマッチタイプには起こらないとは誰にも言えないはずです。

拡張テキストのように、自動最適化の提案が徐々にデファクト化してマッチタイプがなくなる未来は、札束では戦えない中小企業には少し憂鬱な想像です。もちろんそうなったらそうなったで人間の知恵とクリエイティビティを使って対応していくだけなのですが、それでも時折「もう少しシンプルに仕事をしたいな」と思ったりするのも事実。すぐにマッチタイプがどうこうなることはないと思いますが、引き続き自動化とマッチングの進化には注目していきたいと思います!