それでも拡張CPCにイエスと言う

自動化は運用のかなりの部分を占めている

広告の運用は(メガプラットフォームに限れば)かなりの部分が自動化されてきています。

「広告の生成」「ターゲティング」「入札」「配信」「トラッキング」「レポーティング」「レコメンデーション」「エラーチェック」など、広告運用のあらゆるレイヤーで自動化は広く実装されており、実際に意識するしないはさておき、あらゆる場面で運用者は自動化の恩恵を受けています。

自動化によって、それまでの手動設定と比較して運用者の時間は大幅に節約されました。システムが設定を簡素化してくれたり、自動調整してくれているぶん、人間は広告やウェブサイト/アプリの品質向上に力を割くことができますし、単なる効率化以上に、求める結果に対してパフォーマンスを最大化させる可能性を自動化は秘めています。

もっとも影響を感じやすい「入札」

自動化の中でも、運用者がもっとも自動化の影響を肌で感じやすいのが、「入札」ではないでしょうか。

私はおっさんなので、Google AdWords Editor(現在の Google広告エディタ)が存在しなかった時代に大量の広告を入稿したり、広告グループの概念がなくすべてのキーワードと広告を1:1で紐付けなければならならない重い管理画面のプラットフォームが主流だった時代に何万キーワードを気合でビッドしていました。(絶対的に時間が足らないのでよく徹夜してました)

 

2003年にYahoo!がOvertureを買収。検索のバックエンドに (参考記事)

2000年代前半当時はすべてが手動でした。特に 2003年以降に(Yahoo! JAPAN で正式に採用されたため)日本でも主流になった Overture などの初期型プラットフォームは、構造が現在と比べてシンプルであるがゆえに相対的に多くの項目に人間が介入する必要があり、文字通り管理画面に張り付いていた気がします。

また、オークションシステムに影響する要素が現在よりも少なく、入力した価格がどのように結果に作用するのかも一目瞭然でした。特にシンプルなセカンドプライスオークションが主流のプラットフォームでは「入札」が業務における大きなウェイトを占めていました。

あれから20年近くが経った現在、システムの構造と規模は複雑かつ膨張し、それゆえに人間が入力する部分は徐々に限定されつつあります。自動化によって「入札」は単価を設定するものではなく、事後的に単価が確定するものになりました。

入力が限定されるということは、広告システムにデータをフィードし、システムがそこから最適化できるようにするためのボトルネックを外して導く方法を試されている、ということでもあります。機械学習の基本的な動きと広告ランクや品質の仕組みを把握しないと望む成果が得にくい、学習コストの高い仕組みに変わってきているということです。

そのような状況下では、キャンペーン管理は自然とデータ サイエンス的な性格を帯びることになります。

自分で最適化のレバーを動かすことを前提としないかぎりキャンペーンの設計はむずかしいはずですが、自分で動かせる範囲はどんどん限られてきている。このパラドックスと付き合いながら、運用者はシステムと向き合っていく必要があります。

セルフサーブと決定回避

一般に選択は良いものであり、 選択肢は多いほうが少ないより好ましいと考えられがちです。上限 CPC が設定できたほうが、目標 CPA が設定できたほうがいい。運用者の多くはそう考えると思います。

ですが、プラットフォーム側は選択肢を増やすと好ましい結果にはつながらないと考えているようです。(実際に RPM 視点で考えればそのとおりだと思います)

広告はインターネット以後、代理からセルフサーブの仕組みに置き換わったことで、選択の回数が劇的に増えました。それまでは広告代理店の提示するプラン、メディアの持っているメニューから選択すればあとは予算とターゲットに合わせて出稿まできれいに流れていたものが、ターゲット、予算、入札額、広告表現の一字一句まで細かくすべての設定について選択や入力をする必要に迫られるようになりました。配信量も、単価も、何もかも保証されていない世界に切り替わりました。

 運用型広告市場は急速に成長し、成長に合わせて機能がどんどん増えていきます。機能の数は入力の複雑さと連動していくため、広告運用は一時期まで非常にタフな業務でした。工夫する余地はたくさんあるけれど、工夫すればするほど複雑さが増し、工数が増えていく。決めることが多すぎたのです。

選択肢が多すぎると、人はその中から選び取ることを避けるようになります(決定回避の法則)。機能もできることも増えたけど、やらない(やれない)。自動化がプラットフォームに強烈にビルトインされる少し前の2000年代後半、プラットフォームは典型的なイノベーションのジレンマに陥っていたように見えました。

参考リンク

 

入力の複雑さは、2010年代に入り自動化が代替していきます。自動化の普及は機械学習の普及とニアリーイコールとなり、精度を加速度的に向上していきました。

一方で、精度が向上すればするほど人間が選び取れる選択肢は削られていく傾向になるはずです。油断するとシステムが提示するレコメンドから選ぶだけになるでしょう。そのうち人間が入札することはなくなるかもしれません。

限定合理性としての拡張CPC

ケインズは一般理論の中で「慣習に従って間違えるほうが、慣習を破って成功するより評判はよいものだ(it is better for reputation to fail conventionally than to succeed unconventionally.)」と言いました。

自動入札という慣習に従って間違えるほうが、手動入札という慣習破りで成功するよりもよいのでしょうか。うーん、私はそうは思えません。

たとえば Google広告の場合、手動入札である個別クリック単価(上限CPC)はもはや管理画面上で見つけるのがむずかしくなってきています。

課金はクリック単位で行われるのに、クリック単価を設定するにはシステムのレコメンデーションをかいくぐる悪知恵が必要という、出来のわるい小噺のような状況が現代の運用型広告です。

すべての広告主は、プラットフォームが提示するベストプラクティスや機械学習の一般的なセオリーとは別に、個別の予算があり、目標があり、制約があり、製品があり、サイトがあり、アプリがあり、強みや弱みがあります。それぞれの状況の中で最善の意思決定をしなければなりません。マクロの合理性ではなく、ミクロの限定合理性の中に生きています。

参考リンク

 

だから自動と手動のどちらがすぐれているか、というのはミクロな立場では二次的な問題に過ぎず、広告主ごとの目的に対して説明責任が果たせる手法であればどちらでもいいのではないかと個人的には考えています。問題なのは選択肢がないことです。

慣習と異なる選択をするには勇気が入りますし、そこから成果を出すのはかんたんではありません。しかも成果を出してもシステムからはアラートが出るだけ。

それでも、求める回答ができるのであれば、管理画面でどれだけ煽られようが、四半期ごとに新しい担当者からしつこく電話がかかってこようが、堂々と拡張CPCを使っていけばいいのだ。

私はそんな風に考えています(なんだか愚痴っぽい投稿になってしまった)。