Eメールもメディア
メール広告はいつか運用型なるのだろうか?
もちろん CRM の世界ではとっくの昔にメールは運用の中心だが、広告として見た場合は少し様相が異なる。テレビですら CTV / OTT によって一部の広告はプログラマティックになりつつあるのに、デジタルの大先輩にあたるEメール広告はどこかで時が止まったままのように見えるのだ。
一斉配信かセグメントかの違いはあれど、通数課金が主役なのは 20年前から変わっていない。なかにはクリック課金型の広告もあるようだが、メール自体がどんどん届きにくくなっているし、届いても開封されないことが多いので、プロバイダは生計を立てるために本数か頻度かその両方かをインフレさせていく。私たちのメールボックスは常に溢れたままだ。
メールの内容に応じたコンテクスチュアルな広告もあまり見ない。効果が出ているという話も(私が不勉強なだけかもしれないが)あまり聞いたことがない。
そんなことをグダグダ考えていたところ、Google アドマネージャー(以下:GAM)のヘルプに、ひっそりとメールニュースレター用の広告タグにかんするドキュメントが公開されているのを見つけた。この記事を書いている 2024年6月時点ではまだベータ版のようだ。
GAM はパブリッシャーの広告収益を司るプラットフォームなので、メールの配信元も立派なパブリッシャーだと考えるとこの機能は自然だ。むしろ今までなかったのが不思議なくらい。
ポストクッキーの世界で、Eメールは古くて新しい選択肢
Eメールや SMS のようなテキストメッセージは、アドレスや電話番号で送信先を明示的に指定するため、ターゲティングに Cookie の影響がない。(計測では影響する)
Chrome の 3rd Party Cookie の寿命は 2025年まで延びてはいるものの、クッキーがどうのこうのの前に、従来型のディスプレイ広告が先にカタストロフを迎えた。デジタル広告の市場は引き続き伸びてはいるが、クロスプラットフォームの広告エクスチェンジは機能しているとはいえず、現実は Google や META などのメガプラットフォームによる巨大なサイロが、広告費を吸い上げながら自己肥大をつづけているイメージだ。
ただし、その肥大化の中にいわゆる「バナー広告」は含まれていない。伸びているのは検索やソーシャルや動画、あるいはショッピングで、従来型のバナー広告はむしろ衰退している。
こんな記事も書きました。Googleもセグメント別で唯一成長していないのがGDN
だからこそ良識あるパブリッシャーは常に新しい収益の方法を模索しているし、同時に、広告主も常に信頼できる新しいチャネルを探している。
GAM が(ベータ版ではあるが)サポートを発表した Eメールは、新しいどころかむしろ古いチャネルの筆頭ではあるものの、アドテクをめぐる事態の悪化によって何周か回って新しい選択肢として浮上しはじめているのかもしれない。
GAM のメール広告の設計
というわけで、GAMのメール広告はどういうもので、どんな設計なのか、ドキュメントを参照しながらつらつらと見ていきます。
(ちなみに本機能は今のところ GAM 360 じゃないと使えないらしいので、個人のブログや中規模までのメディアにはあまり関係なく、基本は専業の大手パブリッシャー向けだと思います)
配信管理ではなく、本文に挿入する広告
メール広告は主に通数課金だと冒頭に書いたが、言いかえればそれはオプトインしたユーザーに対するスポンサーシップ広告である。メールの題名に【PR】と入ってたりして、メール全体が広告になったものだ。
一方、通常のメールマガジンの本文の中に数行だけ広告になっていたり、HTMLメールのヘッダーやフッター付近に広告枠としてバナーが挿入されていたりするものもある。これらはクリック課金であることが多い。ただし多くが静的な枠だ。
GAM のメール広告は、この静的なメール広告枠を動的に変えるものだと理解できる。メールの一部に広告枠ができ、その広告枠はプログラマティックにサーブされる。
GAM メール広告タグの構成
GAM のメール広告は、アンカータグ <a> 2つで、イメージタグ <img> を挟むような感じで生成される。
広告タグの例<a href="https://securepubads.g.doubleclick.net/gampad/jump?ptt=21&iu=/1/example_ad_unit&sz=216x36%7c300x50%7c320x50&clkk=*|UNIQID|*_*|CAMPAIGN_UID|*_*|DATE:d/m/y|&clkp=1&url=*|ARCHIVE|*&t=genre%3Dcomedy%26movie%3DLilo%2520%2526%2520Stitch" target="_blank">
<img
src="https://securepubads.g.doubleclick.net/gampad/ad?ptt=21&iu=/1/example_ad_unit&sz=216x36%7c300x50%7c320x50&clkk=*|UNIQID|*_*|CAMPAIGN_UID|*_*|DATE:d/m/y|&clkp=1&url=*|ARCHIVE|*&t=genre%3Dcomedy%26movie%3DLilo%2520%2526%2520Stitch">
</a>
<a
href="https://securepubads.g.doubleclick.net/gampad/jump?iu=/1/example_ad_unit&sz=216x36%7c300x50%7c320x50&clkk=*|UNIQID|*_*|CAMPAIGN_UID|*_*|DATE:d/m/y|&clkp=1&url=*|ARCHIVE|*&t=genre%3Dcomedy%26movie%3DLilo%2520%2526%2520Stitch&click_type=wta">この広告について</a>
挟まれているイメージタグの src プロパティを見てみると、広告サーバーのパスである https://securepubads.g.doubleclick.net/gampad/ad からはじまっている。
このパスに以下のパラメータを追加していくことで、広告サーバーに情報を渡すことができる仕様になっているようだ。
フィールド名 | パラメータ | 説明 |
---|---|---|
リクエストNo. | ptt | ニュースレター広告リクエストであることを示すために、常に「21 」を指定する |
広告ユニットのパス | iu | 表示するアド マネージャーの広告ユニットを指定する。広告ユニットのパスは以下の形式にする必要がある。/network-code/[parent-ad-unit-code/.../]ad-unit-code network-code:広告ユニットが属するアドマネージャーネットワークのユニークの識別子。もしMCM(クライアントマネージャー)の場合は、親/子の両ネットワーク識別子を parent,child として指定するparent-ad-unit-code:すべての親広告ユニットのコード(トップレベルではない広告ユニットにのみ適用される) ad-unit-code:表示する広告ユニットコード 例)以下のようなパスになる 最上位の広告ユニット: /123/homepage マルチレベル広告ユニット: /123/sports/baseball MCM: /123,456/homepage |
サイズ | sz | 広告スロットで表示可能な広告クリエイティブのサイズ。表示されるサイズは広告申込情報の想定されるクリエイティブフィールドで選択したサイズと一致している必要があるので注意。 複数のサイズをパイプ( | )文字で区切って指定する。パラメータの値全体をURLエンコードする必要がある。例)以下のような指定になる サイズが「216×36」「300×50」または「320×50」の場合、 サイズ文字列は 216x36|300x50|320x50 となり、パラメータ値は 216x36%7c300x50%7c320x50 となる |
メールごとのユニークな文字列 | clkk | 広告ごとにユニークの値を指定する。広告タグ内では、アンカーURL と画像URLの両方に同じ clkk 値を指定する必要がある。clkk 値を生成するには、Eメールサービスプロバイダ(ESP)が提供するマージタグ機能を使用するが、詳細が ESP によって異なるため、利用する各 ESP のドキュメントを参照すること。Mailchimp や HubSpot のような主要 ESP にはドキュメントが揃っている。 |
広告の掲載順位 | clkp | 広告プレースメントを識別する文字列。1つのメールに複数の広告が含まれている場合に必須だが、広告プレースメントが1つのみの場合は省略できる。 例) 1 、2 、top 、middle 、bottom |
「ブラウザで表示」のURL | url | 「ブラウザで表示」の URL。url の値は、 各 ESP が提供する「ブラウザで表示」URL 差し込みタグから入力する |
広告のKey-Value(ターゲティング) | t | レポートやターゲティングで利用する Key-Value を指定する。各キーと値、ターゲティング文字列はURLエンコードする必要がある。 |
上記のパラメータによって、受信者がメールを開くとメールクライアント (Gmail や Outlook など) が広告サーバーに画像をリクエストしたタイミングで情報を受け渡し、広告サーバーは受信者のユニークID を読み取り、その人向けの広告画像を配信する。
配信側の実務としては、通常のディスプレイ向け AdSense などと同じで Eメール内の広告が表示される場所に生成されたタグを貼り付ければ OK だ。
自社広告をフィルする機能などもあるので、技術的にはセグメントメールと組み合わせて広告枠を文脈連動にすることも可能だろう。現在はベータ版なので最低限だが、今後の機能拡張が期待される。
メール広告は運用型になるか
ここまで書いてみて、改めて GAM のメール広告は「これまでのディスプレイ広告の乗りものがメールに移っただけ」だと感じる。
一方で、繰り返しになるがこれまでのメール広告はオプトインメールなどの配信数による課金モデルが多く、運用型のディスプレイモデルは少なかった。
コンテクストや受信者の特性に合わせて動的に広告を出し分けるためには、コンテクストに合うだけのデマンドサイド(広告主側)のバリエーションが必要になる。それが叶うほど広告主からたくさんの出稿を得つづけるメールプロバイダやビジネスメディアはこれまで存在しなかったし、これからもむずかしいだろう。
一方で、GDN は過去20年ほどのあいだ天文学的な広告と広告枠とをマッチングしてきたので、逆風が吹いているとはいえ受給バランスは今でもだいぶ整っている。以前は Gmail向けの広告メニューも持っていたが、あれはメール広告としてはやや亜流だったので、現在はデマンドジェネレーションや P-MAX に統合されている。
今回の GAM のように、広告主側ではなくパブリッシャー側からのアプローチのほうが、メール広告の経路としては自然なのかもしれない。世の中のディスプレイ広告はすでにこれ以上広告枠を増やせない飽和点を超えているが、メールはまだ開発の余地がある気がする。
もちろん、GAM のメール広告は今のところ画像のみなのでメーラーで画像を非表示にしているユーザーには表示されないし、イメージタグは doubleclick.net にリンクしているので広告ブロッカーの前では役に立たないかもしれない。
言いかえれば、広告枠で本文が見えなくなるような GDN と同じ轍を踏むのではなく、関連性が高くなるように運用するインセンティブがあるということだ。むしろそれ以外では機能しないはず。ディスプレイ広告が機能不全に陥っている今だからこそ、メール広告は健全に運用されることを願いたい。