ランダム化されたセカンドプライスオークション(RGSP)とは何か? 〜検索広告の収益性とフェアネスの狭間で

先日、とある場で検索広告のオークションモデルについて議論する機会があり、セカンドプライスオークションにおける品質の重要性について改めて考えることがあった。

そこで思い出したのが、「ランダム化されたセカンドプライスオークション」である。これは検索広告の価格と品質について学ぶにはちょうどよい対象なのだが、いかんせん広告ランクとGSP(ふつうのセカンドプライスオークション)の前提知識がないと理解しにくい。

というわけで、この「ランダム化されたセカンドプライスオークション(RGSP)」についてかんたんにまとめてみようと思う。

※記事内で検索広告について解説しているものは、すべて「Google 広告」を対象とします

※「ランダム化されたセカンドプライスオークション」は長いので、以下はすべて「RGSP」で統一します

広告の表示と順序を決める「広告ランク」

広告運用者にはよく知られているとおり、検索広告の表示可否、あるいは表示される場合の順序は「広告ランク」によって決まっている。

広告ランクの詳細については詳細なヘルプがあるので一部抜粋する。

広告ランクのスコアは、大まかに次の 6 つの要素に基づいて決定されます。

  • 入札単価 – 入札単価とは、広告のクリック 1 回に対して最大でいくらまで支払ってもいいか、広告主様が指定したものです。通常、最終的な支払い金額はこれより少なくなります。入札単価はいつでも変更できます。
  • 広告とランディング ページの品質 – 広告とそのリンク先のウェブサイトがユーザーにとってどれほど有用で関連性が高いものであるかも判断基準となります。広告の品質評価の結果は、品質スコアでわかります。品質スコアは Google 広告アカウントで確認できます。
  • 広告ランクの下限値 – 常に質の高い広告を掲載するため、表示される広告が満たすべき最低限の基準を定めています。
  • オークションにおける競争力 – 同じ順位で競合する 2 つの広告の広告ランクが同じ場合、それぞれが同じ順位を獲得する確率はほぼ同じになります。2 つの広告主の広告間の広告ランクの差が大きくなると、ランクの高い広告は勝つ確率は高くなりますが、その位置を獲得する確率を高くするために高いクリック単価を支払うこともあります。
  • ユーザーが検索に至った背景(コンテキスト)– 広告オークションにおいてコンテキストは重要な要素です。広告ランクを算出する際は、ユーザーが入力した検索キーワード、検索時のユーザーの所在地、使用しているデバイス(例: モバイル デバイスやパソコン)、検索した時刻、検索語句の性質、同じページに表示される他の広告と検索結果をはじめ、さまざまなユーザー シグナルと属性が考慮されます。
  • 広告アセットやその他の広告フォーマットの効果 – 広告を作成する際は、サイト内の特定のページへのリンクや電話番号など、特定の情報を広告に追加できます。この機能を「広告アセット」と呼びます。Google 広告では、広告主様が追加したアセットやその他の広告フォーマットの見込み効果も考慮されます。
広告ランクについて – Google 広告 ヘルプ

こんな感じで、ヘルプではとっても詳細かつ丁寧な説明がされているのだが、これを読んで「なるほどね」となる人は少ないと思う。

たくさんの要素が並列で書かれているが、「ランク」という言葉が順序付けを意味する以上、「広告ランク」はあらゆる要素からまとめて推論する帰納的なイメージではなく、計算が可能で、定量化できるものであるはずだ。

具体的にどうやってランキングされるかというと、一般には以下のような計算式で説明されることが多い。

かけるのは品質スコアじゃなくて広告品質ですぞ

いろいろ言い出すとキリがないのだけど、「広告ランク」の算出はざっくり上記の式だと覚えておけばいいと思う。

いろいろ言い出すとキリがないというのは、たとえば「ユーザーが検索に至った背景(コンテキスト)」が違えば、仮にトリガーになるクエリ(に対応する広告グループ内のキーワード)が同じでも、広告主ごとに計算される推定 CTR などの計算根拠は変わるし、有効なアセットも変化するので、オークションごとにリアルタイムに変わってしまうという性質があるからだ。

それを計算式のような単純な平面で理解しようとするとミスリードしやすい。Google は毎秒4万回とも5万回ともいわれる検索を処理しているクソデカデータベースなので、現実は人間の脳みそが想像するよりも立体的で複雑なのだが、とりあえず説明できるようにモデル化すると上記になる、というゆるい理解でいいと思う。

むしろポイントは「広告ランクの下限値」と呼ばれるもののほうで、広告ランクによって検索結果上で順序づけされても、検索ごと、つまり広告のオークションごとに算出される広告ランクの下限値を上回らないと、画面に広告が表示されることはない。

この下限値は英語だと「Ad Rank Threshold」と書く。Threshold は直訳すると基準値のことなので、この場合は広告掲載ができるかできないかの分水嶺になるしきい値(閾値)のことを指す。

ユーザーはこの閾値を上回る広告しか目にすることはないが、実際のオークションではその何倍〜何百倍もの広告が入ってきている。

目にしているのは氷山の一角です

上記のような氷山の一角的なイメージを持っておくと、現実のオークションに近いかもしれない。(画像は以前に書いたブログより)

オークションプレッシャーの高い業界やキーワードであれば青い色の部分が増え、そうでない場合は少なくなる。競合が少ないからといって閾値がゼロに近づくわけではなく、オーガニックのほうが品質が高いと判断されれば競合の広告主が少なくても閾値は高いというのが、品質を加味したランキングの特徴だ。

実際の単価を決める「セカンドプライスオークション」

広告の表示可否や順番を決めるのは広告ランクで、その構成要素はオークションに参加するときの単価「上限クリック単価」である。

「上限」というくらいなので、つまりこれは実際に支払う額ではなく、支払うことが可能な単価の上限を指定している。

現実に広告がクリックされたときに支払う金額は上限クリック単価そのままではない。Google をはじめ多くのモダンな広告プラットフォームでは、オークション理論でGSP(Generalized Second-price )と呼ばれるセカンドプライスオークションで運営されていて、実際のクリック単価もそれによって決定されている。

GSPとは、要するに「順位付けされたあと、次に続く広告の値と同じか、それを僅かに上回る額を払う」というもので、約定した単価そのままを支払うファーストプライスオークションよりもディスカウントされるので、相対的に廉価で済む可能性が高い。

なお、上述のとおり Google では入札額だけでなく広告品質をかけ合わせた「広告ランク」がランキング算出に使われているので、意味的には『次に続く広告の「広告ランク」と同じか、それを僅かに上回る額を払う』となる。

広告ランクの単位は円ではない。これはどういうことだろうか?

広告品質と品質スコアの違い

解説に入る前に、「広告ランク」を構成する「広告品質」についておさらいしてみたい。

「広告ランク」は、ざっくりいうと(上限クリック単価 × 広告品質)で算出されている。

この「広告品質」とはなんぞ?という話だが、ヘルプには「広告の品質評価の結果は、品質スコアでわかります。品質スコアは Google 広告アカウントで確認できます。」と書いてあるので、「広告品質」は「品質スコアから類推する」ものだということがわかる。

ここで大事なのは、「品質スコア」はあくまで計算結果であって、計算根拠ではないということだろう。

広告の品質はオークションごとに常に再計算されているので、その瞬間の実数は誰も確認することはできない。ユーザーやデバイス、時間帯などのさまざまなシグナルによって動的にめまぐるしく変化するので、スナップショットで確認できるような性質の数字ではない。

ただ、ランキングの指標の一部になっている以上、目安を示さないと広告費を出している広告主への説明責任が果たせないので、実数の代わりに指数として丸めたものを管理画面で提供している。これが品質スコアだ。

幽☆遊☆白書でいえば、仙水編(魔界の扉編)で戸愚呂弟がB級妖怪だと知った幽助が戦慄するシーンがあるが、ここでいう B級や S級と言っているのが品質スコアだと考えればいい。

画像は「魔界への扉編」より引用

その妖怪を S級だと判断するにあたり、内訳として攻撃力や守備力といった個別の詳細なパラメータが出てくるシーンが魔界編にある。

黄泉チーム(癌陀羅)でいえば、軍事長の鯱とトップの黄泉とでは、妖力値で圧倒的な差がある。魔界の中では純然たる差があっても、人間界のスケールで見ればどちらも「超ヤバい」妖怪でしかない。ランク付けするとすれば両方とも S級だ。

鯱と黄泉では妖力値が2桁違うが、人間から見ればどっちもS級(「魔界トーナメント編」より引用)

魔界の妖力値と同様に、人間界で使われている Google 広告でも「推定クリック率」や「広告の関連性」、「ランディングページの利便性」といった詳細な値があり、常に更新されている。このそれぞれの値が「広告品質」で、その結果として表現されるグレードが「品質スコア」というわけだ。

個別の広告品質は動的なので表示できないが、それが高いのか低いのかは表現できる。品質スコアはある尺度で見た際の結果であって、広告品質という値そのものではないのはこういう理屈による。

実際に課金されるクリック単価の算定について

幽☆遊☆白書を読み直していたら思わぬ寄り道をしてしまったので話をオークションに戻すと、広告ランクから実際のクリック課金額を算出するというプロセスがある。問題は、これをどう計算しているのか?ということだ。

「広告ランク」は入札額と品質のかけ合わせでランキングされているわけだから、GSP のルール「順位付けされたあと、次に続く広告の値と同じか、それを僅かに上回る額を払う」に照らし合わせれば、掛け算された品質を、割り算で戻せばいいと考える。

この式の解説はこの記事で詳しく書いています

上記の式のように、自社の品質と1つ下の広告の品質同士を約分することで、単位を入札額(上限CPC)に戻す=つまり GSP の課金決定ルールに戻すことができる。

品質の影響によって決められたランクなので、課金額を計算する際に品質で割り戻すことで、品質の優劣が実際の課金額にも反映される仕組みになっている。自身の広告の品質が分母なので、高ければ高いほど割り算の商(課金されるクリック単価)は相対的に低くなりやすい。

セカンドプライスオークションを品質で概括することによって、品質を向上させるインセンティブを広告主に与えたのが、Google 広告のセカンドプライスオークションだと言えるだろう。

品質の構成要素には「推定クリック率」が含まれているので、Googleにとっても、入札が高いばかりでぜんぜんクリックされない広告1よりも、入札はそこそこだがクリックされやすい広告2があれば、広告2が上位にいたほうが収益性が上がりやすい。

クリックされやすい広告はユーザーの検索意図に沿っている可能性が高いから、最も高い入札者が自動的に落札するよりも、検索エンジンの品質低下リスクも少ない。

ランダム化したセカンドプライスオークション(RGSP)とは何か

ここでやっと本題の RGSP に入ることができる。

広告ランクと品質基準の GSP はとてもフェアなしくみに見えるが、そのフェアネスゆえに局地的に硬直性をもたらすことがある。

Google 広告のヘルプ「広告ランクの下限値」には、以下のような一説がある。

広告の品質: 質の高い広告エクスペリエンスを維持するため、質の低い広告に対しては下限値が引き上げられます。

広告ランクの下限値: 定義 – Google 広告 ヘルプ

広告ランクの下限値とは、先ほど出てきた閾値のことで、つまり広告が出るか出ないかの分水嶺を意味する。

「質の低い広告に対しては下限値が引き上げられる」ということは、要するに「仮に品質が低くても入札を積んで広告ランクを高めている場合は、その広告が表示されるための広告ランクの閾値を引き上げるよ〜」と言っている。単価よりも優先して品質に閾値を設定していると言い換えることもできるだろう。

これは質の高い広告を優先するという Google の意図に合致する調整なので意味的にはまったく問題ないが、そうなると、たとえば以下のような問題が新たに浮上してくる。

質の良い広告が出ない問題

広告ランクごとに順位付けした以下の表で、検索結果への広告掲載の閾値として広告ランク 600 が必要だと仮定してみる。

その場合、広告1,2,3 ともに掲載が可能だ。

ただ、広告1 は広告品質が低いため、先ほどの「質の高い広告エクスペリエンスを維持するため、質の低い広告に対しては下限値が引き上げられます。」というルールにしたがって閾値が引き上がる。

ここでたとえば元々の閾値の 2倍にあたる 1,200 の広告ランクが必要だと判断されたとする。

オークションの原理に忠実に従えば、広告1 は広告ランク 1,000 に対して閾値が 1,200 へと引き上がっているので要件を満たさなくなり、広告は掲載できなくなる。同様に、広告1 よりも低い順位である広告2 と広告3 も非掲載になってしまう。

元々の閾値は 600 だったのでどちらも本来は条件を満たしていたはずだが、単純な広告ランクの計算によって入札額が高い広告1 が最上位に来たことで閾値が引き上がってしまったがために、広告1 よりも品質が高い広告2 と広告3 は表示できなくなってしまったのだ。

これは行儀の悪い成金が集まったことでなじみの常連客が来なくなってしまったミシュラン掲載店のような悲しみがある(ひどい比喩ですみません)。こういう状況がつづくと、品質が高い広告を優先したい Google にとってはあまり望ましくないだろう。

一方で、オークションは市場原理である以上、極端にリッチなプレイヤーが入ってきたり、マッチングの精度やデータの遍在など、状況次第でいつでもモンスターが紛れ込む可能性がある。潜在的な機会損失を自ら設定したオークションモデルによって生み出しているともいえる。

こういった状況で、閾値を満たす良質な広告を掲載させるために意図的に掲載順位を変えるしくみを、RGSP(Randomized Generalized Second-Price)オークションという。

上記でいえば、たとえば 1位と 2位を入れ替えればすべての広告が掲載可能になるのだ。次の章で解説する。

RGSP は理にかなったルール違反

RGSP は、意図的にオークションモデルを逸脱するという意味ではルール違反だが、一方で、ランキングにランダムな操作を加えることによって近江商人でいう「三方よし」を成立させている。

  • 広告主:質の高い広告を配信することによって、仮に極端に高い入札の広告主が現れても、表示機会を失う可能性が少なく、よりよいポジションに広告が掲載される可能性がある
  • Google(メディア):品質の高い広告をよりよいポジションに表示しやすくすることで、検索結果からの収益性(RPM)を引き上げることができる
  • ユーザー:品質の低い広告を目にすることが少なくなり、より関連性の高い情報を目にすることが増える

Google では検索ごとにオーガニックの検索結果の上に表示される広告の数が異なる。これはその広告枠が固定領域ではなく、広告ランクの閾値が動的に変動している証左であると同時に、RGSP が機能する前提でもあるといえるだろう。

ところで、この RGSP によって広告の実際のクリック単価には上昇圧力がかかることになる。

先ほどの例でいえば、広告1 の品質が低いことによって、それよりも品質が高いが広告ランクは低い広告主の表示機会が奪われないように 1位と 2位を入れ替える、というような動きをとるのが RGSP だ。

広告2はRGSPによって実際のCPCが151円→200円へと上がってしまった

上記のように、広告2は GSP であれば計算上151円で済むはずだったクリック単価が、RGSP では上限の200円まで上昇してしまう。

GSP のままだと広告は出せなかったので出ないよりはマシではあるが、GSP では広告の品質を上げれば単価は下がりやすいロジックだったはずなのに、配信機会を増やし検索結果の品質を上げるために RGSP を導入すると、品質が高い広告は表示機会を得る代わりに単価が上がりやすくなってしまうのだ。

これではオークションの公平性に欠けるということで、RGSP は2023年の独占禁止法裁判の議題の一つにまでなった。より高品質な広告を生み出すというメリットよりも、検索で独占的な立場にある Google が広告収入を増やすために恣意的に濫用していると判断されたわけだ。

収益と公平性の狭間で

話は少し変わるが、現在の広告運用では「スマート自動入札」と呼ばれる目標から逆算したリアルタイムビッドマネジメントが主流である。

価格の上昇圧力は RGSP によるものよりも、価格決定権をコンピューターに任せる設計である自動入札によるところが大きい。

その理由はこちらの記事に書いております

広告ランクをベースとした GSP を基本方針として採用している以上、その中身である広告品質で表示/順位が入れ替わる可能性のある RGSP のほうが、検索品質の担保とフェアネスを提供していると考えるのが自然だ。

個人的には、品質を優先した結果としてプラットフォームの収益の上昇圧力となるのはそこまで大きな問題ではないと思う。

問題なのはむしろ自動入札のほうで、推定CVR から逆算して極端に高い上限CPC で入札することが横行し、それを部分一致による大幅なカバレッジの上昇などによるオークションプレッシャーの過度な上昇を後押ししてきたことで、現在は RGSP のフェアネスというメリットをかき消すほど、クリック単価に上昇圧力がかかっている。

RGSP はオークションの原理に不確実性を加えるものである以上、常に不協和音を呼び起こすトピックであると思う。公平性と収益性の狭間にある「理にかなったルール違反(逸脱)」である RGSP を考えることは、運用型広告のオークションを考えるうえで非常に面白い題材だ。

入札戦略やマッチタイプ、P-MAX のようなシグナルベースのアトリビューション最適化キャンペーンに取り組むにあたっても参考になる点が多いのでまとめてみたが、他に追加したい要素が出てくればまた本記事で更新していきたい。