Google の検索結果の最上部に生成 AI による回答が示される Google の「AI による概要」(AI Overview:以下「AIO」)が導入されてしばらく経った。
はじめてアメリカで本格導入された2024年5月頃(日本では同年8月)は、インデックス情報からサマライズした回答を検索結果上で示すという仕様がゼロクリックを促進することから、「オーガニック検索経由でのウェブサイトへのトラフィックが減少するのでは?」といった憶測や、「SEO は無意味化していくのか?」といった悲観論までさまざま飛び交った。
AIO がオーガニック界隈で話題になった一方で、広告側はもともと(広告ランクなどによるが)検索結果の最上部から数行を確保していることが多かったため、本件に関する極端な悲観論はあまり見られなかった。意識している人がそもそも少なかったといった表現のほうが近いかもしれない。
実際には影響していた(特にモバイルで)
じゃあ実際はどうだったのさ、という資料を発見したので見てみたところ、広告にもそれなりに影響はあったらしいことがわかってきた。
2024年10月に発表された Tinuiti の定点観測資料「Digital Ads Benchmark Report Q3 2024」によると、アメリカの Google 検索広告(主にテキスト広告)のクリック率は、2024年5月の AIO 導入の影響を受けて、明らかな低下傾向が見られたようだ。
以下のチャートを見てみると、特に一般語と呼ばれるような非ブランドキーワードのモバイル広告での影響が大きく、2024年5月から7月にかけて大幅にクリック率が低下していることが見て取れる。(Non-Brand Text Ads・Phones:図の濃い緑色)
この結果をどう読み解くかだが、素直に考えると、非ブランドクエリのうち特にインフォメーショナルクエリと呼ばれる「情報を探すことを意図する検索語句」で頻繁に AIO が表示されていて、その影響で広告のクリック率が下がっているのではないかと考えられる。
デスクトップ(図の明るい緑色)はそれほど低下しているように見えず、モバイルの落ち幅だけが大きく見えるのは、モバイルの小さな画面で AIO が表示されるとファーストビューを占有してしまい、画面遷移の可能性が減るからだとではないだろうか。(レポートの原文にもそのようなコメントが添えてある)
ここ数年でインテントマッチ(部分一致)と自動入札が浸透したことで、フレーズ一致や完全一致の固定入札ではあまり広告表示されないインフォメーショナルクエリでも広告はそれなりにトリガーされる(≒カバレッジが広がっている)のだが、画面を占有している AIO でニーズを満たせてしまうと、スクロールして通常の検索結果(≒テキストのリンク集)に向かうモチベーションがなくなってしまうのかもしれない。(そう考えると、インフォメーショナルクエリに対する広告のカバレッジって果たして何なんだろうと思っちゃいますね)
デスクトップは以前から動画や地図などの通常リンク以外の情報が検索結果に示されることが多いので、相対的に AIO の影響が少なかったとも言えるかもしれない。
ショッピング広告は逆の動き
別のチャートを見てみると、クエリの性質によって結果が変わることがより分かりやすい。
先ほどのモバイルの非ブランドクエリの急降下に対して、同期間の Google ショッピング広告(図の赤い線)のクリック率は相対的に見て安定していて、あまり AIO の影響を受けているようには見えない。
ショッピングキャンペーンはもともと、情報を知りたいモチベーションのインフォメーショナルクエリよりも、申し込みや購入といった取引を目的としたトランザクショナルクエリや、比較やおすすめのような買うための情報収集であるコマーシャルクエリをトリガーにするように設計されている。
これが AIO よりもいい位置に出ることが多いため(あるいはそもそも AIO の出番はないため)、トランザクショナルクエリのようなファネルの下部に位置するインテントの場合、ショッピング広告自体がその瞬間の最良の検索結果ということも多いのではないだろうか。
検索エンジンは次のフェーズへ
前提として、広告主が欲しがるようなコマーシャルクエリやトランザクショナルクエリよりも、単に情報収集目的のインフォメーショナルクエリの方が規模としては広大だ(広告をやっていると勘違いしがちですが)。
だからこそ、検索の意図(クエリの性質)に合わせた検索結果の最適解を、常に検索エンジンは模索している。
AIO によって広告クリック率が大きく下方に影響を受けるということは、広告よりもオーガニック(からサマライズされた概要)のほうがユーザーにとって利便性が高いということを意味する。それはインテントマッチと自動入札でいくら広告カバレッジを広げようと、ユーザーの支持にはつながっていないということでもある。
さらに、昨今は ChatGPT search のような、次世代の検索モデルが現れつつある。(しかも広告は出ない)
こういった優れた代替案が出てくると、現在のメガプラットフォームがこぞってやっているような闇雲に広告カバレッジを増やすような施策は、いよいよユーザーの離反を招きかねない。
ChatGPT search はリンクリストの代わりに回答を明示するというだけでなく、回答の編集も可能だ。たとえば「自宅から半径5km以内の歯科をレビューの★ごとに一覧にして」みたいなこともできてしまう。
もちろん Google も黙ってはいない。すでにこの記事を書いている2024年11月時点で AIO の適用国は100以上の国と地域にまで広がっており、ほとんどの主要言語で使えるようになっている。
事業者側の立場になって考えてみると、検索広告が必ずしもソリューションにならない可能性がある未来で、検索エンジンマーケティングはどう変わっていくだろうか?ということを考えてしまう。
きっと存在はしているだろうが、今とはアウトプットも施策も違う可能性は高い。AIO がもたらした広告クリック率への影響は、検索広告のこれからを考えるうえで重要なヒントになるかもしれない。