Google広告の「検索キャンペーンのディスプレイネットワーク対応」について、改めて想いを馳せてみたい

パートナーネットワークの透明性

2023年以来、Adalytics から何度か痛烈な指摘があったことで、それまでブラックボックスだった Google 広告のパートナーネットワークにわずかな透明性が確保されようとしている。

2024年3月4日からは、P-MAX キャンペーン経由での検索パートナーネットワーク(SPN)の掲載順位レポートが利用可能になった。アカウントレベルの広告プレースメント除外も、SPN のほか YouTube や ディスプレイネットワーク(GDN) にも適用されるとのこと。

P-MAX にはもともと SPN への配信が含まれている。ただしオプトアウトができなかったため、上述の Adalytics の指摘などによって期間限定でオプトアウトオプションが提供されていた。それが恒久的になったのだ。

Google の対応はずっと後手に回っている。SPN に表示された広告の URL レポートや、あるいは除外リスト機能が最初からあればこういったスキャンダルめいた流れにはなっていなかったはずだが、ブラックボックスが継続された結果、ここにきて急速に皺寄せが来ているように見える。

MFA 問題で揺れる GDN に加え、SPN でも後ろ暗いところが表に晒されてきたことで、(不正とは言わないまでも)Google のパートナーネットワークは今や欺瞞的な配信の温床のような印象になってしまっている。

以前書いたYouTubeのインストリーム実はアウトストリームやんけ事案も併せてご覧ください

「勝手に出ている」理不尽

配信ネットワークに透明性が求められるように、そのネットワークへ配信するためのプラットフォーム側の設定にも同様に透明性が求められると思う。

冒頭で紹介した Adalytics の告発は、端的に言えば「海賊版やアダルトサイトのようなヤバめのサイトの検索結果に Google の広告が出ていますよ」という指摘だった。

ヤバい MFA 屋さんに広告が出るのはもちろんダメなのだが(それでも Google は反論していたが)、仮にそれが事実だとしても、対象が SPN であれば少なくとも検索キャンペーンでは広告主側で除外できるので対処は可能である。

検索であればこのチェックを外せばOK

ここで問題になるのは、おそらく配信先のサイトの品質以上に、「勝手に出ている」ことではないだろうか。

Google は全社を挙げて P-MAX キャンペーンを激推ししているが、検索キャンペーンとは違い、デフォルトで SPN へ配信が含まれていて、かつ(冒頭のリリースが出されるまで)オプトアウトができなかった。広告主は「除外」という選択肢を持つことができなかったのだ。

自動化は便利ですよという謳い文句のトレードオフとして、「除外はできないけど不適切なサイトへ勝手に広告配信されるかもしれませんよ」という理不尽さ、あるいはリスクがようやく浮き彫りになった。

「検索なのにディスプレイ」問題

理不尽なことは他にもある。SPN をあらかじめ除外できる検索キャンペーンにおいても、別のところで深い(でもわかりにくい)落とし穴が以前から存在している。それがこの記事のタイトルにも書いてある 「検索キャンペーンのディスプレイネットワーク対応」だ。

Google は、検索キャンペーンのことを以下のように定義している。

適切なキャンペーン タイプを選択する – Google 広告 ヘルプ

ただ実際には、検索キャンペーンの初期設定を進めていくと「Google ディスプレイネットワークを含める」のチェックがデフォルトで入っている。

デフォルトではディスプレイネットワークがONになっている

このチェックボックスは曲者で、検索キャンペーンを作成しているにもかかわらず、このチェックが入っていると(検索の設定で)ディスプレイ広告が配信される。

ディスプレイネットワークへの配信はディスプレイキャンペーンでつくるものだと考えるのが普通だ。定義上も検索キャンペーンにディスプレイも含まれるとは書いていないわけだし。

でも実際にはキャンペーン作成の最初からこのチェックが入っているので、これがどういうものか知らなければオンにしたまま設定を進めることになってしまう。(だから広告運用の現場ではこのチェックを外すというしぐさが基本動作になっている)

インハウスで運用されている企業のアカウントを拝見して、このチェックが入ったままになっていたために検索キャンペーンだと思ってたら実はほとんどディスプレイ広告でした〜ということは過去に何度かあった。

ヘルプに「ディスプレイ ネットワーク対応では、検索ネットワークで使いきれない予算だけをディスプレイ ネットワークで消化することを目指します。」と書かれているとおり、仕組みの上では検索を優先しているものの、設定しているキーワードの想定ボリュームが予算に対して少ないと、結局は検索ではあまり利用されずにディスプレイ広告で使われてしまう。検索広告としての効果が実感できていない場合も多いのではないか。

ちなみに、チェックボックスを外して運用している場合は最適化案のアラートで「ディスプレイネットワーク対応しろ」と誘導するギミックも存在する。これではミスリードしても仕方がないだろう。

推奨される理由が「未使用の予算がある」だとつらい。最適化とは

ダークパターンとしての「ディスプレイネットワーク対応」

本件に限らず、Google 広告には「そういうことだとは知らなかった」「前提と実際が違う」といった、気づきにくい落とし穴がよく見るとたくさんある。

筆者は研修などで初期設定をシャドーイングする機会が比較的多いのだが、ベテランであれば必ず避けるような地雷を、未経験者が無邪気に踏み抜いていく、という光景を頻繁に目にする。

意図的に誤解を生むようなインターフェースは「ダークパターン」と呼ばれるが、「検索キャンペーンのディスプレイネットワーク対応」はその典型的な例だと言えるのではないだろうか。

ちなみに、このチェックボックスは 2003年に Google のコンテンツネットワーク広告(現在のディスプレイネットワーク広告)が開始されて以来ずっと存在しつづけている。

当時は生まれたばかりの AdSense(=広告主側から見たコンテンツネットワーク)へ広告配信を促進するためにやむを得ない判断だったかもしれないが、世界最大級のアドネットワークとなってからもずっと現在までこのデフォルト設定は続いている。「職歴が会社の中ででいちばん長い、新入社員に昔話ばっかりする先輩」っぽいなと思う。

おまけ:チェック体制が強化された

最後にちょっとだけ補足。2024年3月から、AdSense アカウントを持つパブリッシャーに以下のメールが送られている。

アカウントに所有サイトの申請が必要になる

SPN の透明性を図るために、検索広告(AFS)を設定するパブリッシャーを認証するという機能を加えたようだ。SPN の登録にワンステップ加えることで違法なサイトを排除しやすくなる。

この動きは「Adalytics の指摘が Google のブラックボックスをとこじ開けた」と解釈していいと思う。ジャーナリズムは大事なんだなと改めて感じますね。

以前「Pinterestとの提携に見る、Googleディスプレイネットワークのこれから」でも書いたが、Google はもはや GDN の売上に対してはほとんどリソースをかけていないと思われる。ただ、それはドル箱である検索や動画といった機能が伸びている前提の話のはずだ。

検索の一部を担っている SPN においても GDN 同様の問題を指摘されたことで、収益の柱である検索広告にも亀裂が生じはじめていると気付いたのかもしれない。審査プロセスを増やすという、コストがかかることに珍しく迅速に対応している様子がそれを物語っている。