検索結果のRPMは高いのだと、Twitterのキーワードターゲティング(の発表)が証明している

Twitterの検索広告がはじまっています

2023年1月25日、Twitter は「Twitter キーワード広告」という検索連動の広告メニューをリリースしました。アナウンスの段階ではオープンベータという立ち位置でしたが、オープンベータということはアルファやリミテッドベータは経過したという意味でもあり、要するに事実上のローンチです。

これ、個人的にとても印象的な発表だと感じました。

 

参考リンク

 

何がどう印象的だったのかといえば、この「Twitter キーワード広告」によって、Twitter が 検索結果は「インプレッションリクエストに対応するための数あるプレースメントの一つ」ではなく「ユーザーの欲求に対する意味のある結果(≒回答)を表示する場所」であり、かつ「関連性があってしかも儲かる!」と理解したと感じたからです。

SNSにとって、検索結果は単なるプレースメントだった 

もちろん、これは Twitter にとって最初の検索関連リリースというわけでは当然なく、それは他の SNS でも同様でした。2023年よりずっとずっと前から SNS 各社は検索にかんするターゲティングやプレースメントを提供しています。

例:Twitter の場合

Twitter では以前から「キーワードターゲティング」という、設定したキーワードを含むツイートをしたり反応したユーザーをターゲットとする方法がありました。検索結果には「プロモツイート in サーチ」という名で広告が配信されていました。

プロモ広告について教えてください。のページより抜粋

例:Facebook / Instagram の場合

Twitter と同様に、Facebook でも以前から検索結果はプレースメントに含まれています。

Facebookの広告セットでのプレースメント設定画面

ただし、プレースメントが指定できるのは Facebook の検索結果だけで Instagram にはなかったので、2023年3月21日に Instagram でも検索結果での広告掲載のテストを開始していると発表しています。

検索結果での広告

ビジネス、商品、コンテンツを積極的に探している利用者にリーチするための手段として、検索結果での広告のテストも開始しました。この広告は、検索結果から投稿をタップすると表示される、スクロール可能なフィード内に表示されます。今後数か月で、この配置を全世界にリリースする予定です。

https://business.instagram.com/blog/reminder-ads-and-ads-in-search-results

※ちなみにこれは「リマインダー広告」の発表に抱き合わせた短いリリースなので、3月の段階ではまだ仕上がってない感じがしますね

このように、検索という枯れた機能・枯れた面に対して、ここ最近になって各 SNS は新たなターゲティングを続々と発表してきています。

すでに多様な広告メニューを持ち、それらを10年以上かけて洗練させてきた SNS が、今になって改めて検索に注目しているのはなぜなのでしょうか。

 

検索結果のRPMは高い

考えてみれば当たり前というか、広告運用をしている人からすれば常識的すぎて改めて書くまでもないですが、検索結果の RPM は高いです。他の配信メニューと比較しても圧倒的に高い。

旧来型のバナー広告と比べると笑っちゃうくらいとびぬけて高いのが検索面です。

RPMの計算式

検索面の価値が高いといっても、それはクエリと需給バランスで大幅に変動するので、一般的なバナー広告的カタログスペックで価値を提示することはできません。そこで、どれほど検索の RPM は高いのか、適当に例を挙げて考えてみます。

たとえば 表示回数が10,000回、クリック数が500回で、費用が50,000円の広告があったとすると、クリック率は 5% で、平均クリック単価が100円になります。

この数字は、Eコマースだったらやや高い CPC かもしれないし、金融や人材だったらおそらくだいぶ安いでしょう。CTR の 5% も、検索であれば特に難しい数字だとは思えません。そういうどこにでもあるような平均的な水準の広告を RPM に直すといったいいくらになるのか?

RPMの計算式

上記は RPM の計算式です。この式にあてはめてみると、この「表示回数が10,000回、クリック数が500回で、費用が50,000円の広告」の RPM は ( 50,000円 / 10,000回 )*1000回 = 5,000円 となります。5,000円!

ちなみにクリック単価が 2倍の 200円に上がれば RPM は 10,000円です。10,000円!?

金融や人材、美容や健康食品などの高単価な分野ですと1クリックあたり数百円以上払うことはザラですので、つまり多くの分野で 数万円する RPM の広告で溢れかえっているのが検索連動型広告だといえます。

RPM は Revenue per Mille(1,000回表示あたりの収益)の略ですので、胴元や枠を持つ側の用語です。これを支払う側(広告主)の用語に置き換えると CPM(Cost per Mille) になります。CPM が 5,000円〜数万円する広告というのは、ネット広告のインプレッション価値としては「とても高い」と感じる方がほとんどではないでしょうか。

ちなみに Revealbot で見たアメリカの Facebook 広告の平均 CPM は約11ドル(約1,500円)ですので、これだけ見てもいかに検索が高単価なのかがわかります。

Revealbot による過去1年間のCPM推移

※個人的にはSNS広告で10倍前後、レガシーディスプレイ広告で100倍ほど差があるイメージを持っています

 

高単価を正当化する費用対効果

検索広告が他の広告と比較してこれだけの高単価をどうして維持できるのかといえば、身も蓋もないですが高いCTR(クリック率)とCVR(コンバージョン率)があるからです。それらが維持できるようにオークションを活性化させやすい構造にある、とも言えます。

もう少し情緒的にいえば、検索は「ユーザーが先に情報を欲しがっている状態」であり、それがクエリとしてあからじめ具体的に提示された状態にあるので、広告主は自社の広告をユーザーの欲求とマッチングさせやすいからだといえます。

少し脱線しますが、「Google が掲げる 10 の事実」という有名な10か条の6番目に「悪事をはたらかなくてもお金は稼げる」という条文があります。そこには以下のように書いてあります。

Google が掲げる 10 の事実 – Google より抜粋

この「広告というものはユーザーが必要としている情報と関連性がある場合にのみ役立つと考えています。」という一文は、個人的に「検索広告というプロダクトの哲学が端的に示されてるな〜」と感じます。10の事実は過去に何度かアップデートされていますが、このセンテンスは制定以来改変されていません。

広告はユーザーにとっての情報となったときに初めてクリックされる。検索においては広告は無理やり見せられるものではなく、能動的な探索行動の結果、情報として提示されるべきものという前提があるのが検索連動型広告なのでしょう。

押し付けがましくなく、ニーズ(クエリ)に対するアンサーとしての情報パッケージなのでクリックされやすく、その後のアクションにも結びつきやすい。その積み重ねが洗練されて予測できるようになれば、投資できる金額が増えて循環していく。

こういうサイクルによって検索広告は結果的に高単価でも成立しているのだと思います。

 

SNSの広告は情報になりえたか

一方で、すでに検索連動型広告が始まってから20年以上が経過していますし、2000年代の後半以降は Twitter や Facebook へたくさんのエンジニアが Google から移籍したという過去もあります。外野からしたら「検索結果の RPM が高いなんて分かりきっているのに、検索向けの広告を出すまでに10年以上もかかったのはなぜ?」と不思議に思ってしまいます。

なぜこれほどまで時間がかかったのか? 理由は外野からはもちろん分からないのですが、各社の広告メニューの経緯を思い返してみると何となく想像がつきます。

たとえば Facebook。彼らは 2011年に「タイムライン表示」という発明をして以来、スクロールするひとつながりの帯から発生する RPM をいかに最大化するかに腐心してきました。インスタント動画のストーリーズが登場するまではユーザーに場所の選好はほとんどなかったので、収益の源泉であるタイムライン上の広告を(離脱を最小限にとどめたうえで)どういうアルゴリズムでユーザーごとにカスタマイズ表示させるかが売上変数のすべてだったといっても過言ではないでしょう。

YouTube が世界2位の検索エンジンと呼ばれたように、SNS内ではおそらく非常に多くの検索が発生していたと想像できますが、Facebook が現実の人間関係をグラフ化したものである以上、ある時期まではおそらくユーザー名を探す検索クエリが多かったはずです。

Facebook と違って広告と相性がよさそうなクエリが多いと思われる Instagram は自社の広告ビジネスが立ち上がったあとの2012年に買収し、その後のビジネスや文化的な統合(PMI)の時期が長かったことを考えると、RPM の向上はあくまでアプリのスティッキネスに寄与するものでなくてはならず、マッチングしたら外に出て行ってしまう検索プロダクトは成熟しにくい土壌があったのではないかと邪推してしまいますね。

一方の Twitter は一般に普及するにつれニュース性の高いリアルタイム検索としての性質を帯びてきたことから、Facebookよりも多様かつ鮮度の高い検索クエリがあったと想像できます。 Google などの探索的な検索エンジンと違い、即時的なシングルトークン(1語)のクエリ比率が高いだろうことは想像に難くなく、広告とのマッチングアルゴリズムを洗練させるのに腐心したのではないかと想像できます。

そして、プラットフォームの宿命ですが、需給バランスが適切に担保されないと広告の品質(≒pCTR)は上がりにくく、品質が上がらないとユーザーの満足度も RPM も上がらないというジレンマを突破するのに時間がかかったのではないかと思います。広告主の厚みが Google には遠く及ばないことからも 「数あるプレースメントの一つ」に対して広告メニューを新たに開発するという投資に踏み切れなかったとしても無理はないかなと思います。

 

検索結果を広告面にするということ

上記のような妄想が仮に当たらずとも遠からずだったとすると、これまでのSNSは 検索結果を「インプレッションリクエストに対応するための数あるプレースメントの一つ( An ad placement in search results)」だと捉えており、ドル箱だとは考えていなかったということだと思います。

ですが、冒頭でご紹介した Twitter の新しいキーワードターゲティングは、この考え方とは一線を画しています。検索結果は「ユーザーの欲求に対する情報を提示する場所」であり、それに対して「広告として配信する(Targeted and promoted tweet in search result)」という方針へと転換したように見えます。

両者は「検索結果に出る広告」という意味では同じですが、設計や思想はまったく異なります。単なるプレースメント(Facebook) と検索連動(Google) では RPM が10倍以上も違うという事実からも、両者は似て非なるもので、その差は途方もなく大きいと考えられます。

もちろん、ソーシャルメディアと検索エンジンではユーザーが検索にもとめる結果は違いますので、Twitter が Google と同じような成功を納めるとは限りません。より「場にあったクリエイティビティ」が必要になるという意味では、Google よりも SNS のほうがおそらく難易度は高いでしょう。

ですが 検索結果という、SNS にとって隠れた一等地にどれだけよい製品を導入できるかは、ユーザーの増加がほとんど頭打ちになった SNS にとって、将来の収益性を左右する無視できない要素の一つではないかと考えます。

検索エンジンは昨今の ChatGPT に代表される対話型の生成 AI によって「ゲームチェンジか!?」とにわかに盛り上がっていますが、既存のビジネスモデルに乗りやすくユーザーが対話側を特に求めていない(ので侵食されにくい)という意味で、ソーシャルメディアの検索プロダクトにはまだたくさんの可能性が眠っていると個人的には考えています。というわけで、SNS の検索には引き続き注目していきたいと思います!

 

【2023/6/6 追記】 Instagram は引き続き「プレースメントの一つ」の模様

記事を出した数日後、Instagram がマーケティングAPI をつうじて Instagram の検索結果に広告を掲載することができると発表しました。

内容としては検索結果をプレースメントの一つとして指定できるというシンプルなもので、Twitter のキーワードターゲティングとは違い、「インプレッションリクエストに対応するための数あるプレースメントの一つ( An ad placement in search results)」という捉え方に変更はなさそうです。

もちろん、仮に Instagram の検索広告を作るとしたら 既存の Facebook 広告のスキーマだと対応できないでしょうし、API や管理画面インターフェースにも大幅な刷新が必要になるでしょうから言うは易し行うは難しですが、、、今後に期待ですね!