企業事例:一般社団法人more trees

Case: more trees

「数字ありき」ではない支援

音楽家 坂本龍一氏が創立し、建築家 隈研吾氏が代表を務める森林保全団体「一般社団法人more trees」は、国内外数十箇所の各地域と協働して進めている森の保全活動のほか、国産材を活用した商品やサービスの企画・開発、セミナーやイベントを通じた森の情報や魅力の発信など、「都市と森をつなぐ」をキーワードにさまざまな取り組みを行っていらっしゃいます。

LIFTは、Google Ad Grants を通じて、同団体のデジタルマーケティングを通じた認知施策をご支援いたしました。

すでに長い期間 Ad Grants を活用していた more trees さんは、どうして LIFT にサポートを依頼してくださったのか。事務局次長の嶋本さま、広報担当の福井さまにお話を伺いました。

一般社団法人more trees
事務局次長 嶋本 恵さま
広報担当 福井 千裕さま

インタビュアー
LIFT合同会社
代表 岡田吉弘


「都市と森をつなぐ」というコンセプト

岡田:今日はお忙しい中お時間いただきありがとうございます。まずはお二人のご紹介と、more trees がどのような活動をされている団体なのか、改めてお話しいただけますでしょうか。

嶋本:こちらこそありがとうございます。more trees の嶋本恵です。現在は事務局次長というポジションで、事務局全体を見つつ、海外の植林プロジェクトでしたり、最近は個人の方向けのファンドレイジングにも関わっています。組織や活動内容が変化していくにしたがって、ここ数年は広報領域や、デジタルマーケティング周りなど、さまざまな分野に顔を出してきました。

岡田:どういうきっかけで more trees に参画されたんですか?

:入ったのは2016年です。前職で転職を考えていた時に、「日本仕事百貨」という読み物系の求人サイトに more trees の求人が出ていたんです。 私は神奈川県の横浜出身で、逗子や鎌倉などの比較的身近に自然がある環境で育ったのですが、社会人になって仕事に忙殺されるようになると、森や海に遊びにいく機会がまったくなくなってしまって。

もともと環境に対する意識は多少は持っていたつもりです。そんな中で more trees の「都市と森をつなぐ」という求人のコンセプトを見て、改めて自分を見つめ直す機会になったといいますか。

more trees 事務局次長 嶋本さん

「自分のように小さい頃は自然に触れていても、大人になって都市の生活の中で自然と距離ができてしまう人が世の中にたくさんいるわけだから、そういった人たちがまた森や自然とつながることで社会は良くなっていくんじゃないか」と思ったら面白そうだなと。

当時は広報を募集していたのですが、広報なんてやったこともないのに勢いで応募して、広報としては不採用でした。ただ事務職だったらと言われて、事務として入社しました。

岡田:それまではまったく違うお仕事をされていたんですか?

:前職は手作りグラノーラのお店で働いていました(笑)

岡田:ええ! …それはそれで深堀りしたい(笑)

:(笑)。いくつか職は変えてきているんですが、「次はどうしようかな」と考えていたタイミングでたまたま求人を見たので、これもご縁かなと思いますね。入社してからもう10年になりました。これまでの職場で一番長いので、NPOという分野も自分に合っていたのかなと思います。

岡田:面白いなあ。ありがとうございます。広報は今は福井さんが担当されていますね。

福井:はい。more trees 広報の福井千裕です。more trees の活動を知っていただくための活動全般を担当しています。

more trees に入るきっかけは、振り返ると 3.11(東日本大震災)でした。新卒はグローバルIT企業のテクニカルサービスだったのですが、自分の所属するチームだけでも何十人、部門単位だと数百人という単位の会社だったので、外資での仕事は面白いものの、つながりの希薄さや、自分の仕事が社会とどうつながっているのかが感じにくいというモヤモヤを抱えながら過ごしていました。

more trees 広報 福井さん

それで別の会社に転職したり、出産したりとライフイベントが重なっていた時期に震災が起きました。当時私の娘はまだ1歳だったこともあって、都市と原発の関係や、自分の家族が食べているもの、吸っている空気、そういったものが急にリアリティをもって迫ってくるというか。「ぜんぶつながっている」という事実をひしひしと感じるようになりました。

それで一度グローバル企業のキャリアは精算して、思い切ってローカルに振ってみようと、地元のオーガニックレストランの調理や、児童の発達支援事業などへ仕事を変えてみたんです。 そういった流れの中で、人目につかない場所で頑張っている人たちの存在を強く意識するようになりました。舞台裏に光を当てたり、自分が話したり書いたりすることで周りに伝えていくという仕事に興味を持ち始めていたとき、more treesの広報のお仕事にご縁があり現在に至ります。

岡田:ローカルへ活動を振っていく中で、more trees の活動に響くところがあったんですね。

福井:そうです、やはり先ほどの「都市と森をつなぐ」というコンセプトですよね。どうしても自然と関わりたい、関わる仕事に就きたいとなっていくと、急に「自然派」と「都市派」で二項対立になってしまう場面に出くわすのですが、それにずっと違和感があって。自然派の人、都市派の人でそれぞれ相手方を否定したり、粗探しをしてしまいがちなので、more trees の「都市と森をつなぐ」というキーワードは、その対立軸をブリッジする力があるのではと思いました。

植林で本来の森の姿へ

岡田:ありがとうございます。私も 3.11 でキャリアをローカルに切り替えたので勝手ながらとても共感しました。改めて more trees という団体についてお伺いしたいのですが、坂本龍一さんが始められて、ここまでどのような活動をされてこられたのでしょうか。

:坂本が立ち上げた当時は京都議定書(1997年)の直後だったので、カーボンオフセットのクレジット取引の時代が来る!とかなり環境対策についての機運が高まっていた時期でした。more trees として最初にお取り組みさせていただいた高知県の梼原町も、クレジットの創出をしている地域だったという話を聞いています。

岡田:現在は植林・育林をつうじて森林の保全・再生という活動を積極的に展開されています。

:はい、立ち上げ当初はカーボンオフセットという文脈もありましたし、手入れが難しくなっている森をどうにかしていくという目的もありました。当時と現在とでは森林をめぐる状況が少し異なっていて、国内の林業が徐々に元気がなくなっていくにつれて増えすぎたスギの人工林の手入れが行き届かないという問題に焦点が当たっていました。

ですので、実は2010年代の後半くらいまでは「うちは植えません」「植林しない団体です」というニュアンスで説明していました。海外のプロジェクトでは植林するのですが、国内は植えるよりも手入れが行き届いていない森をどうにかすることを優先して活動していました。

岡田:なるほど。スギを密度高く植えてしまって間引けず暗い森になっているから、手を入れていくことで生物多様性を守るという感じでしょうか。

:そうですね、そもそも林業の考え方として、間引く前提で密に植えるんです。木が育っていく過程で枝を落としたり間伐したりしていくのですが、国産材をめぐる状況はかなり厳しいので、やってもやっても赤字になってしまい、補助金を入れても継続できないので、「もうこのまま置いておこう、何もしないのが最善だ」となってしまっていました。

もちろん今おっしゃった生物多様性という意味でも、針葉樹が混み合いすぎて光が地面に届かないと下草が生えず、雨が降ると土が流れてしまうといった問題はあります。ただ当時はまだ「生物多様性」という言葉はそれほど人口に膾炙していなくて、「健全な森林にするために間伐しないと木材としても使えないので林業が衰退してしまうし、土砂災害にもつながってしまう」という説明が中心でした。

岡田:そこから「植林」に向かう過程には、世の中の変化もあったということですね。

:はい。そういった状況もあって木材自給率もすごく落ち込んでいたので、政府としても「とにかく皆伐(かいばつ)だ、自給率を上げよう」と推進していきました。2010年代後半はずっとそれを言っていて、補助金もつくようになって徐々に伐採が進むようになりました。

加えて、電力自由化やFIT(固定価格買取制度)が始まった時に、バイオマス発電のペレットに使うために木が伐られるようになったりと、いろいろな事情が重なっています。

岡田:今までは輸入材に押されて国産材が使われずにいたのが、ペレットなど多様な用途が出てきて、補助金もつくようになって動きが出てきたと。

:一方でペレットなどは単価がとても安いので、山にじゅうぶんにお金が回ってくるかというとそうでもないんです。林業のルールとして「伐ったら植える」が原則なのですが、経済的に回らないのでそれがあまり守られずに「天然更新(伐った後にそこにある種が芽吹いて次の木が自然に生えてくる)」と言って、実質何もしない場所がすごく増えてしまいました。

効率優先でざーっと一帯を伐ってしまい、山肌が見える丸裸状態で放置されるという事案が増えていまして、それは一度にたくさん雨が降れば崩れてしまう状態なので問題になっています。

出典:「林野庁の再造林の促進施策について」 林野庁(令和5 年9 月)

再造林率といって、伐ったあとに再度植えられる面積の割合が現在は3割ぐらいしかないというデータも出ています。つまり残りの7割は丸裸のまま放置されているということです。

また、日本の森林の4割ぐらいがスギの木なんですが、日本には1000種とも言われるほど多様な木の種類があるのに、現在は非常に偏っていて、先ほどおっしゃっていた生物多様性の観点としては逆行しているとも言えます。

岡田:戦後の拡大造林政策が、数十年後の今になって影響してきているということでしょうか。

:いろんな意見があると思いますが、スギへの偏重については「結果的にそうなってしまった」という見方はできると思います。

過去は変えられないので、ではこれからどうしていけばいいのかと考えた時に、スギのような針葉樹だけではなく、その土地に以前から分布していたり、伝統的に利用されてきた広葉樹も植えていくのがいいんじゃないかと。たとえばスギであれば植林後にまた30〜40年かけて手入れが必要になってしまいますので、なるべく手がかからないものにしていきたいとも考えています。

何を目指すかは地域によりますが、例えば「いい里山にしたい」が目指す姿であれば、基本的には植えてそのままにして、草刈りをしながら徐々に森になっていくようなやり方にします。 人手不足で機械も入れられないような山奥の急斜面を無理やり収穫の対象にするのではなく、広葉樹に入れ替えていくことでバランスを取り戻し、元々あった山の姿に転換していくような方向性を示していくというかたちです。

そういった考え方にご賛同いただいた企業さまに協賛いただいて、2019年頃から「企業の森」というスキームで植林活動を進めています。

岡田:そうやって「植え換えていく」という活動に移っていったんですね。今はその「企業の森」がどんどん増えてきていると。

:はい、国内外含めて数十箇所の森になってきています。

「知ってもらう」ことを目的に

岡田:ここまでお聞きしてきた more trees の活動を世の中にどう伝えていくか、認知や理解をどうやって得ていくかが広報での大きなポイントなのかなと思いますが、これまではどのようなマーケティングをされていたんでしょうか。

福井:これまでは主にウェブサイトでの発信、あとは SNS、メルマガでの発信ですね。

岡田:企業や個人は、どのようなルートで more trees を知ることが多いですか? 相手方から探して来てくれる感じなんでしょうか。

福井:そうですね、たしかにお問い合わせをいただくことは多いです。あとはイベントでしょうか。例えば先日「グリーンインフラ」がテーマのイベントで事務局長が登壇しましたが、そういったイベントに参加されている企業さんからお問い合わせをいただくこともあります。

改めて整理してみると、企業さんにテレアポするといったプッシュ型の営業はほとんどしたことがなく、企業の方や個人の方から寄付や植林についてご連絡いただくことで取り組みがスタートすることが多いです。

嶋本:そういう意味で、「検索された時にきちんと表示される」「ウェブサイトでちゃんと伝える」ということは意識していました。2018年から Google Ad Grants(以下:アドグランツ)も動かしてはいました。

岡田:問い合わせがメインということは、ある程度リードは取れていたというか、そこまで緊急の課題ではなかった感じですよね。

:これまでの流れをお話しすると、2020年のコロナ禍は静かでしたが、それ以降は世の中が「何かしなきゃいけない」というマインドになったのか、「企業の森」のお問い合わせはものすごく増えました。いわゆる CSR(Corporate Social Responsibility)の文脈だけではなく、マーケティングや経営サイドからお問い合わせをいただくようになったのもここ数年の傾向ですね。

キーワードでいいますと「SDGs」のあとに「コロナ禍」があって、「パリ協定」「カーボンニュートラル」「環境負荷の情報開示」「欧州のルール厳格化」などが続き、ここに来て「生物多様性」や、肌身で感じる「気候変動」があります。ゲリラ豪雨や洪水、酷暑などの災害が激甚化していることで、誰もが身に迫っている感覚があるのかなと。

岡田:確かに実感としてありますね。ここ数年明らかにおかしいぞと。私が子どもの頃は「ゲリラ豪雨」なんて派手な言葉はなく、「夕立」で済みました。夏も信じられないくらい暑くなって、しかも期間がどんどん延びている。

:40℃の日も珍しくなくなってきましたよね。「100年に1度」と言われるようなことが毎年のように起きている。高校生向けに環境をテーマにした講演をすることがあるのですが、「このままでは未来はこうなってしまう」というスライドを出しても最近はあまり驚かれないんです。「もうそうなってない?」みたいな。。。

岡田:世の中の意識が否応なく変わってきているんですね。

:以前なら「やらなきゃいけないのは分かるけどコストがね」という反応が多かったのですが、今は「環境に対して何かしている」ということが当たり前というか、前提となる時代に入ってきています。スタートアップや規模がそれほど大きくない法人の方々からも、「立ち上げたばかりで寄付額は少ないかもしれないけれど、こういう取り組みは大事だと思っている」とご相談いただくこともあります。

国産材でつくられた more trees のプロダクトが並ぶオフィス

岡田:なるほど。そうなるとますます more trees の活動を適切に伝えていくことが重要になってきますね。

福井:本当にそうです。これまでは法人とのお取り組みが多かったのですが、個人の方からもさまざまな寄付をいただいています。ただ、個人の方向けの施策が何もできていない反省がありました。

植林や保全といった取り組みにおいては一定の認知度はあると思いますが、一般への認知度はまだまだ。個人の方にも森林をめぐる状況を広く知っていただき、よりたくさんの人に関わっていただく場所を作っていければと思っています。そうでないと、また「伐る・伐らない」の二項対立の話になってしまうので。

嶋本:その意味でも、検索した際に more trees の取り組みを知っていただく手段としてアドグランツにリソースを割くことは必要だと感じていました。開設以来、運用はプロボノさんにお願いしていたんですが、どうしてもお任せ状態で、私たちも詳しいわけではないのでフォローアップができなかったり、トラフィックや問い合わせが減ってきていてもどうしていいか分からなかったりして、できれば詳しい方に頼みたいなという課題がずっとありました。それで LIFT さんを見つけて問い合わせました。

岡田:ありがとうございます。アドグランツは通常の営利目的の広告と比べるとできることも限られていますし、独自のレギュレーションもあるので活用できている団体さんはどうしても少ない印象です。

最初にお問い合わせいただいた時は「おお、あの more trees から!」と盛り上がりました(笑)。ヒアリングする中で個人向けの情報発信が課題だとお聞きした際も、個人の多くはどこかの企業に所属しているわけですし、どういうきっかけや課題意識で問い合わせや相談につながるかはある意味で複雑系の世界なので、団体側のアウトカム(寄付やイベント参加)だけを打ち出すのではなく、検索クエリからご本人の問題意識にちゃんと寄り添った情報提供をすることが大事だと考えました。

嶋本:まさに、プロボノさんにお願いしていた頃は「寄付はこちらまで」みたいな広告の出し方をしていました。でも「それってどうなんだろう」というモヤモヤがずっとあって、でも専門家っぽい人にアドバイスを求めても「KPIを設定」「寄付の最大化」みたいな話になることが多かったので、岡田さんに「まずは more trees を知ってもらい、活動の理解を得ることを優先しましょう」と言っていただいて、やっぱりそうだよねと合点いったといいますか、霧が晴れた感じがしました。

岡田:寄付は、お金はもちろん意思決定のリソースもたくさん使う行為ですので、やっぱりいきなり「寄付してください」と言われたらふつうは引いちゃうと思うんですよね。団体を知っていただく前に離れちゃいますし、寄付してくれたかもしれない人を逃しているかもしれない。せっかく素晴らしい活動をされているので、まずは more trees を知っていただくことをアドグランツの役割として設定するのがいいんじゃないかと思い、訴求を含めた再設計をご提案しました。知れば共感してくれる方は必ずいるはずですから。

初回のご提案スライド 表紙

福井:私はアドバイスいただくにしても相性があると思っていて、技術的なサポートの前提として、私たちの想いをどれくらい知ってくださっているのか、共感していらっしゃるのかどうか、そういう面を大事にしています。LIFTさんとお話ししていると、more trees の活動に共感してくださっているのがよく分かりますし、アドバイスの内容からも分かるようにガツガツしていないところがいいなと(笑)。

アドグランツの挙動やアルゴリズムなどの素人では分からない細かい部分も丁寧に教えてくださいますし、ずっとこの分野でやっていらっしゃるからこその知識と、「数字に表れない質やユーザーの動き」を考慮してくださるのがありがたいです。

嶋本:世の中に出回っているノウハウは「数字ありき」なところがあると思っているんですが、「いくら数字が良くなったとしてもヘイトを集めたら意味がない」とかサラッと言ってくれますし、非営利だからこそより重要な要素を見てくださったうえでのご提案をいただいています。

福井:実際、それが数字としても表れてきているのが本当にありがたいです。LIFTさんにお問い合わせする前はトラフィックが落ち込んでいて焦っていたのですが、現在はアドグランツの予算も毎日使い切るようになり、水準もだいぶ回復しました。

岡田:ありがとうございます。「広告は情報にならないと意味がない」と思っていまして、広告を見た受け手が「これが私の求めているものだ」と認識してもらって初めて情報になるものだと思います。営利であれば「売れれば何でもいい」という企業もいると思いますが、アドグランツだからこそ、活動に共感してもらう情報設計を意識しました。

僭越ですが、弊社もいい活動だなと共感するからこそ、たくさんの方に知っていただきたいと思っています。

福井:ありがとうございます。今後もいろいろと企画していくので、引き続き関心を持っていただければ嬉しいです。

more trees の会議室にあるメッセージボード

参考リンク

more trees の公式サイトはこちら↓