企業事例:富士サファリパーク
Case: Fuji Safari Park
リニューアル→デジタルマーケティング
「ホントにホントにホントにホントにライオンだ~♪」のテレビCMでもおなじみ、富士山の南側、静岡県の裾野市にある富士サファリパークを40年にわたり運営している小泉アフリカ・ライオン・サファリ株式会社。LIFTは、2017年よりシンク株式会社と合同で富士サファリパークのデジタルマーケティングを支援しています。
同社の営業部で、広報やマーケティング全般をご担当されている竹内さまと、ウェブサイトの企画運用を行っているシンク株式会社の盧さまに、長い伝統を誇る富士サファリパークのような大規模施設におけるデジタルマーケティングの役割についてお話を伺いました。
小泉アフリカ・ライオン・サファリ株式会社
営業部 竹内大介 さま
https://www.fujisafari.co.jp/
シンク株式会社
取締役 盧賢一 さま
https://shin-c.jp/
インタビュアー
LIFT合同会社
代表取締役 岡田吉弘
世の中の多様化への対応として、デジタルがある
岡田:はじめに、富士サファリパーク(以下:富士サファリ)についてお聞きしたいと思います。富士サファリは日本で知らない人はほとんどいないというくらい著名な施設ですが、改めてご紹介いただけますでしょうか。
竹内:富士サファリは、1980年に日本初の森林型動物公園としてオープンしました。富士山の麓に広がる大自然の中で、ライオンやキリン、ゾウなどを野生動物がのびのびと暮らし、その中を車に乗ったまま見学(サファリドライブ)することができます。
開園以来、特に希少動物の保護・繁殖に取り組みながら、様々な野生動物の生息地環境における生態、優れた能力を紹介することに取り組んできました。例えば、「森の中の池で涼をとるアムールトラ」や、狩りをする際に見られる「疾走するチーター」、アフリカのマニヤラ湖畔でしか見られない「木に登るライオン」、アジアの森で対岸の餌を求めて川を渡る「水中を泳ぐゾウ」などです。
岡田:ありがとうございます。竹内さんについてもぜひ教えてください。
竹内:営業部の竹内と申します。1997年の入社で、当初は飼育係として入りましたが、その後はずっと営業部におります。
盧:何度か一緒に(園内を)回らせていただいてますが、竹内さんのご説明から動物に対する愛情がわかります。
竹内:小さい頃から動物が好きでしたので、なにか動物に関わる仕事がしたいと思い、畜産系の学校を出て富士サファリに入りました。デスクワークや、スーツを着て営業するなんて絶対やりたくないと学生の頃は思っていましたが、今は営業部の方が長くなりましたので、人生はわからないものです(笑)。
岡田:営業部に異動されてからは広報宣伝関係のお仕事に就かれていたのでしょうか。
竹内:いわゆる営業活動のほかにも、動物についての知識があり、飼育経験もありましたので、広報的な業務で取材の立会いをしたり、移動動物園で商業施設を回ったり、幼稚園を回って動物教室を開いたり、そんな活動をずっとしていました。広報宣伝は2008年ぐらいからですかね。
岡田:富士サファリといえばあのテレビCMの曲が有名ですが、現在の広報宣伝活動においてデジタルはどういった位置づけでしょうか。
竹内:大昔は折込チラシやダイレクトメールとかもやっていましたし、現在でもOOH(屋外広告)などもやっていますけど、やっぱりそれでお客様が動くというのはだんだんなくなってきているというのが実感です。世の中の生活者というか、消費者のライフスタイルや価値観がどんどん変化・多様化していますので、それに合わせて我々も変わっていかなきゃいけないというのが大元にあります。その多様化への対応として、デジタルがあるという感じです。
岡田:以前よりも優先順位や施策の順序が変わっているというイメージでしょうか。
竹内:そうですね。たとえばテレビをまったくやめるということは考えておりませんが、マス媒体を引き続き重要視しつつも、デジタルをもっと強化していくつもりです。もちろんインターネットでは接触できない層もたくさんありますので、引き続きオフラインでの営業活動も重要です。
盧:先ほどおっしゃられていた幼稚園への訪問ですとか、大事なお取り組みだと思います。
竹内:すごいんですよ。私が営業に行くときはゼブラ模様の車で行くことが多いんですが、着くと子どもたちがバーっと集まってきて、あの歌を歌ってくれます。「先生呼んできてね」というと、「せんせい、サファリパークきたよー」と連れていってくれたりします。
盧:最高ですね。
竹内:最高です。ときには「園の運動場に車入れてください」と言われて記念撮影をしたり、ちょうど今日お遊戯会の練習をしているので見ていってくださいとか、なかなか帰れないですけど、そんな営業をしています。すぐそこで物を売るという営業ではないものですから。
岡田:広く動物に興味を持ってもらうという啓蒙活動ですね。息の長いマーケティングですね。
竹内:そうなんですよね。そんなこともいまだにやっていますね。
デバイスの進化によって顕在化した課題
岡田:富士サファリのウェブサイトは比較的早い段階から開設されていましたが、2010年代に入って課題が顕在化してきたとお聞きしています。
竹内:当初は「ウェブサイト=PCサイト」でしたのでPC向けに運営していましたが、2000年代後半からいわゆる携帯電話(ガラケー)でもだんだんアクセスが増えてきましたので、携帯用のサイトも立ち上げました。そうこうしている間に2010年代に入りスマートフォンが爆発的に普及したため、別個にスマートフォン用のサイトを立ち上げました。それが2013〜14年くらいだったと記憶しています。
岡田:初めてお会いした頃は、確かサイトが複数に分かれていました。2013年頃だとレスポンシブデザインが当たり前というよりは、PCとスマートフォンで別々のサイトとして運営する企業も多かった記憶があります。
竹内:最大3つのサイトを運用していて、多大なコストがかかっていました。1つの記事URLが変わると全部見れなくなりますので、3つともマニュアルで直さなきゃいけない、という厳しい状況でした。
岡田:そうですよね。ユーザビリティの観点からも、社内の運営体制という意味でも、リニューアル直前くらいまで非常に大変な状況だったということですよね。
竹内:はい、そうですね。
共感をウェブサイトで表現する
岡田:現在は広告を含めたデジタルマーケティング全般を実施していますが、私のところに最初にお話をいただいたタイミングでは、そもそもの土台であるウェブサイトをなんとかしないといけないという課題が顕在化していました。
竹内:そうですね。先ほど申し上げたとおりまずはサイトの運用を抜本的に改善しないと回らない状態でしたので、来園者や潜在的に興味を持ってくださる方への情報提供もふくめ、リニューアルをお願いしました。
岡田:単純なデザインの話ではなく、運用に踏み込んで継続的にパートナーとして取り組めるような企業さんが必要だろうということで、私が全体のディレクションをして、最終的にシンクさんにパートナーになっていただきました。
盧:開発に入る前に、みんなで富士サファリにお伺いしましたね。
岡田:大きな車を借りてお伺いして、デザイナーやエンジニアはみんな家族連れでお子さんと一緒に見学する、というツアーをさせていただきました。
竹内:実際に制作してくださるデザイナーさんたちが、我々のターゲット層に近い、つまり子育て世代の女性の方だったのがよかったです。実際に来ていただいて、施設がどういうものかしっかり見て把握していただき、ある意味いいところも悪いところも見ていただいて、どう感じたかをウェブサイトで表現してもらえれば、来園者目線の情報が出せるのではないかと考えました。
岡田:当時私が「富士サファリは今こういう状態で、こういう思いを持ってリニューアルしたいんですけど、いかがですか」と制作会社さんにオリエンして回っていた先の一つが盧さんが取締役を務めていらっしゃるシンクさんでした。私の説明が終わるやいなや、盧さんが一言「やります」っておっしゃったんですよ。それぐらい盧さんは、富士サファリに共感してくださっていて、シンクさん自体のコンセプトも単なるウェブ制作でなく企業のパートナーとして寄り添うというスタンスなので、そういう意味でも相性がいいんじゃないかなと思ったというのはあります。
盧:スケジュールとしてはタイトでしたが、富士サファリの魅力が引き出せたリニューアルができたのではないかと思います。
顔が見える信頼感
岡田:リニューアル後は運用が以前よりもスムーズになり、広告やSNSなどを通じた広報宣伝活動もやりやすくなったとお聞きしています。
竹内:はい、企画立案から告知までの流れがだいぶ改善されました。また、わかりやすい効果でいいますと、リニューアル後最初の夏に実施したナイトサファリはたいへん盛況で、前年を大きく上回る実績になりました。
岡田:目に見える実績が出せてよかったです。あれから2年ほどご一緒させていただいておりますが、率直なところを教えていただければありがたいです。
竹内:以前までと最も変わった点は、お互いに顔が見えているお仕事ができていることです。やりとりの際に、みなさんの顔が見えているのですごく安心感がありますし、信頼して依頼できます。また、やったらやりっぱなしではなく、状況に合わせて改善していただけるのも助かっています。最初に「きっとこうだろう」と思ってやり始めたものの、実はちょっとうまくいかないとか、「こうしたほうがもっと上手くいくんじゃないか」と思った時に相談してすぐに動けるという部分ですね。
盧:われわれもそれは同じです。たとえば企業のご担当者とお話しして企画の合意に至っても、その先にさまざまなステークホルダーの調整が入り、結果的に本来の目的から逸脱した内容で決定してしまう、というケースの方が一般的には多いと思います。それが、企業と、制作会社とでトライアングルでタッグを組んでやりとりができるというのは、意外とめずらしいことだと思います。
岡田:現代は非常に物事の変化や情報の流通速度が早いので、むしろこういう組み方で臨機応変に対応していかないと、継続的に成果に結びつけていくのは難しいのではないかと思いますね。手前味噌ですが、今はチームとして理想的な感じでできていると思います。
動物の魅力や命の大切さを伝えたい
岡田:ちなみに来園者数のほうはいかがですか? 2019年は自然災害なども多く、天候としては恵まれませんでしたが。
竹内:実は、2019年は前年より多くのお客さまに来ていただいています。GWが10連休であり暦に恵まれていたというのもありますが、その後は週末に雨が多く、台風などもあって厳しかった割に、前年を超えることができました。
今年の夏は首都圏のテレビスポットを思い切って休止したのですが、大きな影響は感じなかったですし、動物の赤ちゃんが産まれてウェブ広告を実施すると、その週末にはちゃんとお客さまがいらっしゃるんです。だから必要な人たちへ届いているというか、価値のある情報を適切な場所とタイミングに出していけば、きちんと伝わるんだなあと思いました。本当に「どこで知るんだろう」と思うくらい、Twitter と Facebook のようなSNSとウェブ広告しか実施していないのに、週末は明らかに目的意識をもったお客さまが増えますので。
岡田:ライオンの赤ちゃんのような大きなイベントは明らかに検索数が上がりますし、確実に求めている方に届いてるような気がします。
盧:今後追加していきたいコンテンツや園のイベント等はありますでしょうか?
竹内:富士サファリという施設の存在は知っているけど、じゃあ具体的にサファリパークで何をやっているのかというとよく知らないという方が多いので、その伝え方が課題だなと考えています。興味を持っていただけるツアーやイベントがきっとあると思いますし、それがおそらく実際に「行ってみよう」と思うきっかけになるんじゃないかと思いますので。
あとは、やはり私たちは動物の魅力を伝えるというのが仕事ですので、まずはしっかりその仕事に向き合っていきたいという思いがあります。今までは限られた媒体でしか告知ができませんでしたし、実際にご来園された方にしか動物を見ていただけなかったんですが、ウェブサイトやSNS によって、今まで接点がなかった方々と接触できるようになったのはすごく嬉しいことですね。実際に来園されるかどうかは別として、富士サファリの動物たちの魅力を伝えられるプラットフォームができたので、もっと活用していきたいと考えています。
盧:私たちも定期的に来ようと思っています。
岡田:今日も家族でお伺いしているのですが、子どもたちはいつもサファリパークに来るのを楽しみにしていますし、家でも「がおー、がおー」とやっています(笑)
竹内:来ていただけるということがすごいですよね。毎回仕事で来つつもちゃんとご家族で見ていただけるというのがすごく嬉しいです。
動物に興味を持ってもらうことで、子どもたちが命の大切さとか、動物を守ること、あるいは環境問題への関心を持つきっかけになるといったことにつながればいいなと思います。サファリパークはテーマパークであると同時に教育的な役割も担っていると考えていますので、そういったところもウェブやSNSを活用してお伝えできればと考えています。
盧:富士サファリには本当にいろいろな楽しさがあります。我々がつくっているのは外側から見るサファリですが、中を経験しないと外側へ伝えられないですし、ライオンの群れの中に入って見たり、歩きながら自然を感じられるツアーなど、魅力的なコンテンツがあるので飽きないですね。
岡田:だからこそ、富士サファリ、ひいては動物たちの魅力をしっかり伝えられるようにウェブサイトも広告も進めていきたいなと考えています。
盧:先ほど教育的な役割があるとおっしゃっていましたが、それはきっと開園時から現在まで脈々と続いている考え方だと思うんですね。それをずっと守っていくのはすごく難しいことだと思います。そのお考えに賛同できるからこそ、この先もお手伝いしたいなと思います。
竹内:ありがとうございます。おっしゃるとおり、守っていくのは難しいことだと思います。やはり売上が落ちると、即効性のあるいろんなことを考えてしまうんですけど、やっぱり会社としてはそれをやってはダメなんだ、我々はサファリパークなんだからと。
岡田:そこに立ち戻れるのは本当にすごいことです。
竹内:今の時代、もし同じように「大自然のテーマパークを作ろう」という構想があったとしても、おそらく同じものはできないと思います。
盧:ロマンですよね。
竹内:だから残していかなきゃいけないと思うんですよね、本当に。
岡田:そうですよね、そのためにもやはり多くの方に来ていただいて、見ていただきたいです。本日は貴重なお話ありがとうございました!
富士サファリパーク
https://www.fujisafari.co.jp/