社会貢献:ほくりくみらい基金

Case: Hokuriku Mirai Foundation

財団設立の発起人として

ほくりくみらい基金は、「一人ひとりの思いとアイデアがつながる、北陸の未来づくり」を実現するために、資金助成や寄付、ボランティアおよび組織運営支援などをつうじて、地域の課題の解決へ向けて活動されている団体を支援する北陸初のコミュニティ財団です。地域に暮らす誰もが課題の当事者としてゆるやかに連帯し、できるときに応援し、助け合う。そんな循環を市民が自らの手で生み出すしくみを作ろうと、2023年に財団法人として設立されました。

LIFTは、準備段階のクラウドファンディングをつうじて、設立発起人の一社として同基金の活動に賛同しています。

財団の代表理事である永井さま、理事の丸谷さまに、ほくりくみらい基金の設立に至る経緯や活動内容、今後の展望をお聞きしました。

一般財団法人 ほくりくみらい基金
代表理事 永井三岐子 さま

一般財団法人 ほくりくみらい基金
理事 丸谷耕太 さま

インタビュアー
LIFT合同会社
代表 岡田吉弘


機動力のある支援の仕組みを

岡田:今日はお時間いただきありがとうございます。まずは永井さんのバックグラウンドと、ほくりくみらい基金を立ち上げるにあたっての経緯を改めて教えていただけますでしょうか。

永井:こちらこそありがとうございます。まずかんたんに自己紹介しますと、私は前職で国連大学におりまして、地方ユニットの事務局長として石川県各地で自然保護などの環境問題に関わる仕事をしていました。

2016年頃に「SDGs」という言葉が出てきたことで、サステナビリティという概念が特定のイシューだけでなく、もっと広く捉えられるようになりました。SDGs の示す 17 のゴールについて自治体へ政策提言をしたり、セクターを越えたパートナーシップ推進を進める中で、金沢市、国連大学そして若い企業家の方々が所属するJC金沢でIMAGINE KANAZAWA 2030というプラットフォームを立ち上げたりしていました。

そういった活動の中で常に感じていた課題は、アイデアはあるけれども資金が不足していることでした。世の中にはたくさんの解決すべき問題があるので、自治体でも何でも、すべての項目にお金を出すことはできません。だから、困っている方が困っているときに少しでも援助できるような機動力のある仕組みが欲しいと、ずっと考えていました。

そんな時に JANPIA全国コミュニティ財団協会を通じて各地でコミュニティ財団の立ち上げを応援していることを知り、早速手を挙げたのが現在のほくりくみらい基金のはじまりです。

代表理事 永井三岐子さん

岡田:「ないならつくればいい」と。

永井:そうですね。自治体や公的機関はどうしても限られた財源の中で配分しないといけないので、コミュニティ財団という、市民がボトムアップで互いに支援していく活動であれば、自治体の努力と相互補完的な動きにできるはずだし、私が国連大学時代に感じていた課題感ともマッチします。だから私がやるんだと、そう考えました。

岡田:ありがとうございます。続いて丸谷さんもぜひお願いします。

丸谷:理事の丸谷です。私は大学の専門がまちづくりで、以前から市民団体の活動について関心がありました。私は東京の世田谷区出身なのですが、2016年から金沢に来まして、こちらに来て感じたことの一つに、テーマごとに団体をつくってコミュニティ活動を活発に行っている世田谷とは対照的に、金沢では伝統的に町内会の力が強いということでした。

「子育て支援」や「障がい者支援」といった課題ごとの活動を石川県でももっと強くできたら…と思っていたところに、ほくりくみらい基金を立ち上げるという話を聞いて、参画を決めました。世田谷のコミュニティ財団の立ち上げに関わったこともありますので、その経験が活かせればと思っています。

理事 丸谷耕太さん

地域の課題を可視化する

岡田:ありがとうございます。おそらく多くの方はコミュニティ財団と聞いて、具体的に何をする団体なのかがイメージしにくいような気がしています。具体的にどういう活動をされていくのかお聞きできればありがたいです。

永井:具体的には、ウェブサイトにも載せている以下の3つを活動の柱としています。

 

ほくりくみらい基金 3つの活動の柱

地域課題の解決に向けて活動する市民団体や事業への助成金の公募・支給でしたり、それぞれの団体へ運営支援やノウハウの共有、地域にフォーカスしたイベントの実施や、プロボノ・ボランティアの仕組みづくりなど、地域と人をつなげる活動全般を行います。いわゆる「新しい公共」と呼ばれる、社会全体として互いを支え合う活動の媒介を担えればと考えています。

岡田:今おっしゃられた「新しい公共」という方針の流れで、全国にコミュニティ財団をつくるという動きが活発化していると思いますが、やはりそれぞれの地域が持つ特色というか、地域性のようなものは財団の活動に影響するんでしょうか。

永井影響すると思います。課題によっては「誰も取り残さない」という方針で取り組まないといけないものもありますが、地域として面で捉えた場合、ほんとうに様々な課題がそこかしこにあることに気づきます。特定の課題だけが深刻なのではなく、みんながそれぞれ何かしらの課題を持っていて、ごちゃ混ぜになったまま日々を生きている。

そういう前提を互いに共有しながら未来を考えていこうという姿勢に立つと、多様性を尊重しながら、考える「場」や「プロセス」、あるいは「デザイン」していくことが特にこの石川、北陸地域では意味があるんだろうなと考えています。

岡田:特に北陸では意味があるというのは、地域性が関係しているということなんでしょうか。

永井:私は石川県出身ですが、石川の人ってみんないい人なんです。慎ましやかで、真面目で。だから困ってても表立って言わない。「人に迷惑をかけてはいけない」と思っている人が多いんです。そうなると困っている人は外部から見えにくくなる。課題が解決に向かわないまま埋もれてしまっている。

だからこそ、そこに課題があることを知ってもらったり、発見したり、協力者を募ったりする活動は特にこの地域にこそ必要だなと思います。

 

 

岡田:そうですよね。以前永井さんから「ほくりくみらい基金に期待することは何ですか?」と聞かれた際に、私は「可視化です」とお答えしたんですが、今おっしゃっていただいたことがまさにそれだなと思います。

自分のことをお話しすると、私は2010年ごろからSVP東京というノンプロフィット向けの中間支援団体に所属しているのですが、そこで学んだことの一つに、可視化の重要性があります。課題は知られないと手の差し伸べようがない。資金援助やリソース支援など、中間支援団体の直接的な価値はたくさんあるのですが、それに先立つのは可視化だと感じています。知られれば、仮に自分ができなくても、他の誰かが、自分よりもふさわしい誰かが手を差し伸べてくれるかもしれない。

永井:本当にそうですね。一人では難しくても、つながりがあれば。

岡田:まさにつながりのための可視化ですよね。現代の課題は複層化しているので、たとえば私の会社でサポートしている愛知県のにわとりの会(事例)という団体は「外国につながる子どもたちへの教育支援」というテーマの NPO なのですが、実際に活動の中身を見てみると、そこには初等教育だけでなく、言語、多文化共生、人権、経済、家庭環境など、多くの社会課題が複雑に絡み合っている現実があります。それぞれの課題は独立していなくて、連関している。そうすると、もちろん課題の奥深さに目眩がするのですが、同時に、可視化することで他の団体や専門家をつなげることもできると気づく。

だから、見える化は課題解決の第一歩だなと感じます。そしてそれは中間支援団体だからこそできることなんじゃないかなと。

永井おっしゃるとおりですね。我々が当事者の声を届けたり、あるいは上がらない声に耳をすませたりしないといけない。発起人の一人である「いしかわ医療的ケア児・障害児家族グループ PareTTe(パレット)」の谷畑さんがおっしゃっていましたが、「医療的ケア児」と聞くと、医療の専門家じゃないとサポートできないんじゃないかと尻込みされてしまうけれど、実は「介添えで手が離せないので重い荷物を一緒に持ってほしい」とか、そういうシンプルなことだったりする。それなら自分でもできる、という方はきっといらっしゃるはず。

岡田:まさに、知れば「できる/できない」あるいは「誰ならできるかも」が判断できる。発起人としてはその可視化の部分にとても期待しています。

横のつながりをコミュニティに

丸谷:今のお話の延長で、やはり「コミュニティ財団」である以上、「財団←→応援団」という関係性ではなく、応援したい人のコミュニティづくりをしていきたいと考えています。たとえばそのコミュニティに100人の応援者がいたら、課題が投げかけられたときに、誰かが手を挙げてマッチングしたりできるのではないかと。そういった機動力のあるコミュニティをこの地につくれたらと思っています。

岡田:私が所属しているSVP東京がそんな感じなのでよく分かります。可視化の先にあるというか、対になる活動ですよね。

丸谷:困ったときにどこに相談すればいいかわからない団体の方も多いと思います。そこに何か受け皿があれば、迷いが減るのかなと。財団のリソースだけでは限界があるので、やはり横のつながりを育ててコミュニティにしていけるかどうかが大事だと思いますね。

永井そうですね。私たちもこれからイベントを開催したり、交流できる機会をどんどん増やしていこうと考えていますので、ぜひ発起人のみなさんをはじめ、地域の方々にご参加いただきたいと考えています。

コミュニティなので、別に特別な人の集まりではなく、それぞれの隣人、近所に住んでいる人たちの集まりです。ほくりくみらい基金の存在を頭の片隅に置いていただいて、日常の中で気づいた課題や困ったことがあれば、たまに思い出してほしい。そのための「場」をこれからつくっていきますので、ぜひご期待いただければと思います。

岡田:弊社も微力ですができるかぎり参加できたらと思います。本日は貴重なお話しありがとうございました!


ほくりくみらい基金
https://hokuriku-mf.jp/

2024年2月更新:2023年度助成「次のステップ」助成プログラムの選考委員を務めさせていただきました。