広告運用における AI 活用についてはすでにさまざまに議論されているが、AI 活用が広告の分野で最も成功した例の一つである「自動入札機能」の変遷から敷衍して考えてみると、運用者がサードパーティの AI ツールをあれこれとこねくり回すよりも早く、ある程度のレベルのことはプラットフォームの機能として早晩ビルトインされるのではないだろうか?と考えてしまう。
そういった妄想が実は当たらずとも遠からずなのでは?と思わせるリリースが、最近とみに加速している。
2024年3月12日(日本時間:3月13日)に発表されたショッピング広告のアップデートが、まさにその妄想を強化するような内容だったので、今回はそのリリースを取り上げてみたい。
盛りだくさんのショッピング広告アップデート
世の中に AI を謳った新機能や新サービスは多いが、ことショッピング広告においては Meta の発表が際立っている。
詳細は後述するとして、2024年3月12日に出たリリースを大雑把にまとめると以下のようになる。
- Advantage+ でのさらなるクリエイティブ自動最適化(AI×表現)
- トランザクションを増やすための動的なフォーマットの追加(エンゲージメント促進)
- 外部ツールやリテールメディアとの連動(アトリビューション)
それぞれのテーマについて、順番に見ていこうと思う。
1. Advantage+ でのさらなるクリエイティブ自動最適化(AI×表現)
Advantage+ が Meta 広告に実装されてしばらく経つが、現在は(広告セット内で広告をつくるたびに適用の可否を問われることもあってか)ほぼすべての広告主が Advantage+ の持つ複数の機能から何らかを選んで使っているらしい。
Advantage+ の機能の多くはクリエイティブの自動最適化だが、今後は新たに以下が加わる。
動画クリエイティブの縦横比を自動最適化
まずは縦型動画への自動適応。リールをはじめとした動画広告が 9:16 の縦横比の枠に自動的に最適化できるようになるとのこと。スクエアなどの別のサイズの動画であっても、Advantage+ のクリエイティブ最適化で、複数のバリエーションに動的に対応できるようになる。
Meta は本機能の発表時に以下のように縦型動画の成長について言及している。(太字は筆者による)
Reels and video on our apps continues to grow as daily watch times across all video types grew over 25% year-over-year in Q4. In fact people now reshare Reels 3.5 billion times every day.
2023年第4四半期には、すべての動画タイプで1日あたりの総再生時間が前年比で25%以上増加しており、アプリ上でリールや動画に費やされる時間は増加し続けています。実際、ユーザーは毎日35億回リールを共有しています。
https://www.facebook.com/business/news/meta-shoptalk-2024
Advantage+ の新機能によって、広告主は新たに動画を制作せずとも配信パターンを増やせることになり、縦型に適した配信面でエンゲージメントを増やせることになる。リールのような増加しつづける在庫に合わせた表現のアジャストメントが今後ますます促進されるだろう。
Advantage+ カタログ広告の動画対応
カタログ広告にも動画が入ってくる。これまでのカタログ広告は静止画のみに対応していたが、以前からベータ提供されていた動画インポートも今後はすべての広告主が利用できるようになる。
商品のプロモーションビデオや、実際の利用シーンを映したデモンストレーション動画など、静止画のみでは伝わりにくいような商品も、カタログ経由でよりストーリーをともなった訴求ができるようになるのは大きい。
カタログ広告へのヒーロー画像追加
2024年1月から実装されている機能ではあるが、Advantage+ カタログキャンペーンで、カタログ広告の中央にいわゆる「ヒーロー画像」を表示することができるようになった。
カタログに多くの商品情報を表示すればするほど、AI が適切な画像を動的にレイアウトして表示するようだ。
2. トランザクションを増やすための動的なフォーマットの追加(エンゲージメント促進)
ショッピング広告の最終的な目的がトランザクションを増やすことである以上、ショッピング広告の強化とは、上述の動画クリエイティブの表現だけでなくショッピング動線の強化でもある。以下はそのための機能強化だ。
Instagramのリマインダー広告の機能拡張
リマインダー広告は広告主が設定したイベントの開始日時に合わせてユーザーへプッシュ通知を送る広告だが、これまではあくまでリマインドを促すためのもので、ウェブサイトやアプリへの誘導はできなかった。
今回の機能拡張で、外部リンクが可能になっている。また、2024年夏頃には現在の開始前通知だけでなく、イベントの開始時および終了する前に告知できるようにするとのことで、セール期間のラストミニッツ訴求などにも利用できそうだ。
さらに、増加するリール動画の需要に合わせるため、今後はリールにもリマインダー広告を実装する予定とのこと。個人的にもリールとの相性はよいと思う。
ポップアップCTAの実装
プロモーションを強調できる CTA が実装される。広告の詳細を確認しようとするとプロモーションが表示され、クーポンコードなどが適用できる。
先行テストの結果では、購入あたりの費用が 9.1% 削減され、コンバージョン数が 10.1% 増加したとのこと(※)。すでにこの機能はグローバル展開されているとのことで、期末の在庫処分や、今年のホリデーシーズンに活躍しそうな機能だといえる。
※ いずれも平均値ではなく中央値とのことなので、テストでは外れ値が多かったのではないかと推測してます
タグ付き広告の機能拡張
現在は Instagram にのみ展開されている商品タグ付き広告が、今後は Facebook フィードにも導入される。
なお、商品タグ付き広告は Instagram ショップで販売可能な商品を扱っていることが条件になっているが、それも 2024年4 月には緩和され、Instagram 内でショップを運営しているかどうかに関係なく、すべての広告主が商品タグ付き広告を利用できるようになるとのこと。
これによってタグ付き広告の展開はかなり大きく広がることが予想される。カタログを実装している広告主との親和性も高そうで、今後より広まっていきそうな予感がある。
3. 外部ツールやリテールメディアとの連動(アトリビューション)
逆説的ではあるが、ウォールド・ガーデンである自社のネットワークの拡大のために、外部のネットワークとの接続を求めていく、という動きも見せている。
リテールメディアネットワーク(RMN)との連動
ここ数年のリテールメディアブームによって多くの小売チェーンや大規模 EC が広告ネットワークを構築しているが、この動きに合わせるように、Meta は今後リテールメディアネットワーク(RMN)との連動を強化していく。
コラボレーション広告(現在も利用可能)では、カタログを共有しているリテーラーのウェブサイトだけでなく、RMN のシグナルも共有することで、Metaプラットフォーム上の広告が外部サイトやオフラインでの売上にどのように貢献したかを RMN 側に共有できるようになる。
オムニチャネルのサポートも強化していくことで、Advanced Analytics を利用したデジタル側のオフラインアトリビューションの測定や、商品レベルでの実績確認が可能な Advantage+ カタログ広告も今後リリースされていくとのこと。
商品レベルでの実績の確認と、その貢献度を可視化するための RMN ような外部ネットワークとの接続は、RMNにとってもデマンド側のバランスを取るためにも有用な取り組みで、RMNとの現時点でのパワーバランスを考えても冴えた取り組みだといえそう。
ショッピングカートやクリエイターとの協働
Instagram での商品展開にはカートとの連動が重要だが、そのために Shopify だけでなく、Magento や Salesforce Commerce Cloud といった準大手のショッピングプラットフォームとも接続を強化していく模様。
どちらも Shopify と比較すると平均的なショップの規模が大きいと想像できるので、カタログをより広げていくための取り組みだと考えられる。
Advantage+ ショッピングキャンペーンをとにかく推していきたい Meta にとって、Instagram 内で完結できるショップ広告との併用は至上命題だといえる。Advantage+ の動的表現を活用するためにも、ある程度商品点数の多いブランドやリテーラーと接続し、ショップ広告の在庫を増やしていくことがこの取り組みの狙いではないだろうか。
同時に、ショップ広告をパートナーシップ広告 (旧:ブランドコンテンツ広告) にも導入する。これによって広告主はクリエイターやインフルエンサー、あるいは他の企業と協力してショップ広告を掲載できるようになる。とにかく隙がない。
全方位に強化する Meta のショッピング広告
ここまで紹介してきた2024年3月のショッピング広告のアップデート。それぞれの機能を単体で見るとそれほど大きなリリースには見えないかもしれないが、これが同じタイミングで一斉にリリースされるところに、Meta のショッピングにかける優先順位の高さを感じる。
SNSではさまざまなユーザーシグナルを捕捉することができるが、いいね!やシェア、動画やコンテンツの閲覧といった行動から興味関心は把握できても、持っている配信面の多くがリールやタイムラインといったかぎりなくシンプルなものである以上、よりユーザーのシグナルとして強い「モノを買った」という購買行動データを捕捉する必要があったはず。
そして、小売はあらゆる業界の中でもっとも広告費の多い分野であり、今後も SNS という閉じた空間の優位性を利用するにあたっては、カタログ量の増大とそれを表現するクリエイティブの多様性はますます重要になってくるだろう。今回のリリースではその傾倒がより顕著になった印象だ。
外部提携の強化や AI との連動でそれらを実装してくるあたりに、ショッピング分野における Meta の存在感はまだまだ高いというか、今まで以上に増してくるのではないだろうか。
(メ◯バースの開発リソースをもっと早くこっちに向けていれば…と思ったりはします)