セカンドプライスオークションに移行したウォルマート広告は、その後どう変化したか

2022年6月に行われたオークションモデル移行

ウォルマート(広告部門は「ウォルマートメディアグループ」)は、2022年6月から自社の広告プラットフォーム「Walmart Connect」のオークションモデルをそれまでのファーストプライスオークションからセカンドプライスオークションへと移行しています。

リテールメディアといえばアマゾンとウォルマートというくらい、ウォルマートは GMS という枠を超えて広告プラットフォームとしての強い存在感を示し続けています。ウォルマート内の検索数はコロナ前の2020年1月時点ですでに1日あたり1,600万回以上あったと言われており、コロナ以降はその回数がさらに増えていると考えられます。単純に検索エンジンとしても大きな規模です。

今回のオークションモデルの移行によって、ウォルマートの広告プラットフォーム「Walmart Connect」の主力製品である検索広告( Sponsored Products と Sponsored Brands ※)がどれくらい活性化し、広告事業の収益性にどのようなインパクトがあるのか、投資家やEコマース事業者、広告代理店からは以前から注目されていました。

※以前は Search Brand Amplifier として展開されていた、検索結果の上部にバナーとして表示される広告

CPCは半額になり、クリック数は2倍以上

ウォルマートの決算書には広告事業の細かい指標は掲載されていないため、一足先にリリースされている広告のサードパーティである Tinuiti 社のベンチマークレポートから類推してみたいと思います。

参考リンク

上記はサマリー記事。ダウンロードはこちら

それによると、検索の主力製品である Sponsored Products の CPC は前年比 -55% と半額以下になり、クリック数は同じく前年比で2倍以上となる 134% 増となったようです。すごい変化ですね…

オークションのモデルの移行は6月(第2四半期の最終月)だったため、この変化は第3四半期(7-9月)のレポートにはフルで反映されていると考えてよいでしょう。

が第2四半期、が第3四半期の前年比


ちなみに、月別の平均CPC は、2022年の8月に下落のピークである -67% を記録したもののその後は持ち直し、翌9月には前年同月比 -31% と、セカンドプライスオークションへの移行以降で最も減少幅が小さくなったとのこと。徐々にホリデーシーズンに向かってオークションが活性化していることが伺えます。第4四半期にはまた違った結果が出てきそうです。

セカンドプライスオークションは入札を賦活する

セカンドプライスに移行した最初の四半期に「CPC は大幅に下落したものの、その下落率を上回るクリック数の増加につながったため、結果的に前年比で利用額を上回ることにつながった」という結果を、どのように受け止めるべきでしょうか。

オークションに向けて入札した金額をそのまま約定額として支払うファーストプライスと違い、競合他社(≒自分より下の広告)の状況に応じて設定した入札額を下回る金額を払えば済むセカンドプライスは、多くの広告主にとって費用対効果を改善するためのポジティブな変化です。

2022年を100とした場合のROASの変化

実際、広告主側の平均 ROAS は、7月には 4月対比で +83% と驚異的な上昇を示し、9月になっても +61% と高い水準を維持しています。

ROAS が上がれば、よりよい掲載位置を維持するための入札強化だったり、ファーストプライスのときには費用対効果や予算的に難しかった幅広いクエリを拾うためのキーワード追加などの動きに移ると思われます。

商品の利益率(売上高広告費比率)がそのまま入札価格を決定し、他の入札競合に価格が影響を受けにくいブラインドオークションであるファーストプライスと違い、市場のダイナミズムが約定価格に作用するセカンドプライスでは、後者の方がオークションの活性がまったく違うという証左とも言えるデータですね。

品質を加味したオークションの未来は明るい

セカンドプライスへの移行によってクリック数が2倍以上に増えたという事実は、キーワードの追加や入札の強化だけではなく、マッチングの向上という観点からも説明が必要です。

これまでのファーストプライスでは入札価格の高低が掲載に占める比率が高かったため、「入札が高いがゆえに掲載されている魅力的ではない商品」で広告枠が占められる可能性が高く、結果的に期待されるクリック率も上がりにくい状態だったと考えられます。ランキングとしては上位に入札価格の高い広告が並んでいても現実にはクリックされにくいので期待収益も増加しませんでした。

ウォルマートはこの点にメスを入れ、6月からのセカンドプライスオークションでは(Google や Amazon など他のプラットフォームと同様に)関連性(Relevancy)をランキングと落札価格に加味した設計にしています。

Walmart’s algorithm serves Sponsored Products ads based on the product’s relevancy and the cost-per-click (CPC) bid price. To determine relevancy the algorithm looks at qualities such as product title and description, click frequency and product category.

ウォルマートのアルゴリズムは、商品の関連性とクリック単価 (CPC) の入札価格に基づいてスポンサープロダクト広告を配信します。関連性を判断するために、我々のアルゴリズムは製品のタイトルと説明文、クリックの頻度、製品カテゴリなどの品質を参照します。

https://www.walmartconnect.com/a-beginner-s-guide-to-walmart-sponsored-products

品質をオークションに組み込んだことによって、キーワードの増加によるオークションプレッシャーの増加のみならず、関連性の高い広告が並びやすくなったことによってクリック率が上昇したと考えられます。

ウォルマートはファーストプライスではオークションが活性化しないこと自体は最初から分かっていたはずです。分かっていながら実装まで時間がかかったのは、ある程度の精度を持つ品質予測モデルを広告システムに組み込む開発に時間がかかっていたのかなという印象を受けます。

ウォルマートは、広告を小売事業と双璧をなすビジネスに育て上げることを掲げ、「2025年までにメディア売上で100億ドルを超える収益を目指す」と宣言しています。セカンドプライスへの移行から最初の四半期をよい流れでクリアし、これからホリデーシーズンを迎えて更にオークションは活性化していくことでしょう。今後の展開が楽しみです!

(日本も広告事業を持つモールプレイヤーは複数いるので、期待しています)