ついにInstagramが検索に力を入れはじめた(かもしれない)

ハッシュタグの検索結果が多様化した

2024年3月22日、Instagram がハッシュタグ検索をアップデートしたぞと発表している(なぜか Threads で!)。

ちなみにこの Adam Mosseri さんは Instagram でいちばんエラい人です

具体的にどういうアップデートなのかを見てみると、現在の、ユーザーがハッシュタグをタップしたあとに「人気の投稿(Top Posts)」というフィードを表示させる仕様から、今後はそのハッシュタグをキーワードとして、通常の検索と同じようにタブごとに切り分けられた広範囲な検索結果を表示するようになるとのこと。

これは、すでにインプレッションを集めているエンゲージメントの高い投稿のみが集約されたフィードではなく、ユーザーの嗜好に合わせてさまざまな選択肢を提示しようという試みだと理解できる。

この記事を書いている2024年3月27日時点では日本語環境でのロールアウトが確認できないので、画像は上記の Threads 投稿から引用させてもらう。以下のような UI になっているようだ。

#makeup をタップすると(左)、関連する検索一覧がタブで出る(右)

左側でハッシュタグ「 #makeup 」をタップすると、右側のように一覧形式で makeup にかんする投稿が表示されている。

これまでは「人気の投稿(Top Posts)」のみだった部分が「おすすめ(For you)」に変わり、その右横に「アカウント」、「音源」や「場所」「リール」などが並ぶ。検索結果とほとんど同じタブの構成になっている。

検索の入口が増え、アカウントのリーチにつながる

もともと「人気の投稿」のみを表示させていたハッシュタグ検索は、ある種のフィルターバブルを増長させるものだった。

タイムラインあるいはフィードという「限られたスペースの中に可能なかぎり情報を詰め込んで滞留させる」システムでは、アルゴリズムの作用によって人気の投稿はより人気に、そうでない投稿は発見される機会を失いつづけることになる。

エンゲージメントとスティッキネスが蜜月の関係にある以上は仕方がないことだが、ユーザーが望むと望まざるとにかかわらず、情報取得は箱庭化され、個々を無意識的に分断させる傾向があった。

今回のアップデートは、そういった仕組みへのバランス調整だと考えられる。バイアスがかかった結果のみを提示するのではなく、インターフェイスの変更によって関連性や鮮度を加味した多様な検索結果に誘導することで、プロフィールの発見性を高めるという狙いがあると思われる。

ユーザー側に選択肢を与えることによって、検索行動がより拡大していく可能性もあるだろう。

リーチを分散してカバレッジを増やす

閲覧情報がパーソナライズされすぎている場合、興味関心の強化によって画面の快適性は上がっていく反面、副作用として発見の要素は減っていく。それは新たなプレイヤーの参入やアカウント同士のインタラクションを阻む、マイナスの遠心力として作用する可能性がある。

広告ビジネスでは、興味関心で埋められたタイムラインのほうが、そうでない場合より RPM は上がりやすい。一般的にターゲティングの粒度と CPM は正の相関になるからだ。だからタイムラインをユーザー行動によって最適化し、人気の投稿で埋め尽くすことは、アプリの滞在時間と RPM を増やすうえで必要な施策だったはず。

SNS の過度なパーソナライズや人気投稿の差し込みはヘビーユーザーから度々批判されるトピックだが、ビジネス的に考えるとそうせざるをえないのだろう。RPM とスティッキネスのバランスを SNS は常に重視している。

今回のアップデートは検索インターフェイスの変更のみで、おそらくアルゴリズム自体は何かが大きく変わったわけではないと想像できるが、この瞬間も無数に行われているハッシュタグ経由の動線に多様性が加わってくると、フィルターバブルの外側に出ていくトラフィックは増えるだろう。過度な最適化によってユーザーが離反する率も抑えられるかもしれない。

上位数% に常にリーチが集まっていく状況から、ハッシュタグを通じて少しづつ分散していくことで、Instagram の硬直性が改善されていくと、自然と広告のカバレッジを増やすことにもつながっていくのではないだろうか。

リールとRPM

話はかわるが、Instagram はここ2年ほどリールに集中的に投資してきた。TikTok に対抗するためというのが一般的な見立てだが、画像投稿に適したインターフェイスと、動画視聴のそれとでは、微妙に最適解が違うということなのかもしれない。

2022年の記事で軽くこのへんを考察しています

Instagram にとってリールが重要なのは今後も変わらないと思うが、リールによって箱庭化した画面は、フィードという超強力なアセットがあるにもかかわらず、TikTok と単純に比較されてしまうという両刃の剣でもあった。

広告は配信面が限定されればされるほど、どうしてもバラエティは減ってしまう。上記の記事で書いたように、その欠点を補うために自動最適化していく Advantage+ のゴリ押しがあったわけで、その目論見はその後の Meta の好決算によって成功だったと証明された。

今後は、今回のハッシュタグ検索のようなインターフェイスの改善と合わせ、カバレッジをより増やしていくことで、Advantage+ のような自動最適化のためのシグナルを増やしていくことになるだろう。インターフェイスの変更は、リールからタイムラインへの再投資という意味合いでも注目できる。

検索広告の可能性

最後は検索好きとしての妄想だが、ハッシュタグを検索クエリとして機能させるという試みは、Instagram の検索広告が登場する可能性をどうしても期待してしまう。

以前の記事でも触れているが、とにかく検索結果の RPM は高い。Google の検索広告なんて人気の分野であれば RPM 数万円が当たり前なので、それ以外の広告価値が霞んでしまうほどだ。

「広告=バナー」という感覚だと気づきにくい事実

SNS の中では Twitter(現 X)が先に気づいて投資してきたが、Instagram では行われていなかった。検索結果はあくまで「数ある広告プレースメントの一つ」でしかなかったのだ。

キーワードでターゲティングできるかどうかは、同じ検索結果にでる広告でも、RPM の桁が 1−2つ変わってくる。興味関心にダイレクトに訴求できるというのは、それぐらいインパクトがあることだ。極論を言ってしまえば、どれだけシグナルを揃えようがクエリ以外はただの類推でしかない。

今回の検索インターフェイスの変更は、ここにきてようやくInstagram が次の鉱脈に気づいたのではないかと予感させる。

もしこれが検索広告登場への布石だとしたら、まだまだ Meta には成長の余地があるかもしれない。そう思わせるハッシュタグ検索のアップデートだった。何年後かに答え合わせをしてみたいものです。