Meta のリール広告と自動化への集中投資は、インプレッション単価の引き上げに寄与するのか?

2022年10月4日(日本時間:10月5日)、Meta は複数の広告アップデートを発表しました。

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発表のタイトルを日本語訳すると「ビジネスの成長を、人工知能・メッセージング・動画で支援」になります。つまり AI とメッセンジャー、そして動画が今回のアップデートの核となるようです。順を追って見ていきます。

AI:機械学習によるターゲティングの精度向上と拡大

Apple の ATT の最大の被害者は Facebook だと言われることが多いですが、トラッキングの損失による影響は、濃淡はあれど他のプラットフォームでも同様です。

Meta の各アプリが Google等の主要プラットフォームと比較してリカバリーが遅れている理由の一つは、機械学習の差かもしれません。(投資の差というよりケイパビリティの差)

Google は自動入札への長年にわたる強烈な投資によって、2004年の株式公開以来長いあいだアナリストから指摘され続けた CPC の低水準問題に終止符を打ちました。昨今のインフレ前のデータでも、 YoY で+30%以上という驚異的な成長を見せています。

一方で、Meta は2022年第2四半期の決算発表で、インプレッションは前年同期比で15%増加したものの、インプレッション単価は14%下落した(”ad impressions delivered across our Family of Apps increased by 15% year-over-year and the average price per ad decreased by 14% year-over-year.”)と発表しています。Google と比べると対象的な進捗です。

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この状況を打破するための幾つかの施策のうちの一つが、Meta Advantage Suite です。

中身は「Meta Advantage」と「Meta Advantage+」に分かれますが、いずれも最適化と自動化、およびターゲティングの拡張が含まれています。RPM の構成要素であるカバレッジ(広告の届く範囲)とデプス(広告の本数もしくはフリークエンシー)を最大化しつつ、品質(エンゲージメント率など)を最適化していくことで広告量と効率を両立させる狙いがあると考えられます。

広告効果が上がってくるにしたがって広告主や予算が増加し、結果的に「オークションプレッシャーの上昇=インプレッション単価の上昇」という流れになれば、自然と RPM は上がってくるでしょう。

Advanage Suite は今回の発表の半年以上前の2022年3月にリリースされている機能ですが、決算に影響を与えるようなインパクトが出るには相応の時間が必要だと思われます。Googleですら自動入札が決算に如実に影響を与えるまで10年ほどかかっていますので、Meta もそれなりの試行錯誤の期間を経るのではないかと考えられます。

メッセンジャー:コンバージョン最適化とリードジェネレーション

AI の横展開はメッセンジャー広告やリード獲得の広告にも応用されています。直近では Click to Messenger 広告のコンバージョン最適化が開始され、WhatsApp、Messenger、Instagram Direct で企業との会話を開始する可能性が最も高い人に広告が表示されるようになったほか、Messenger またはフォームのいずれかに顧客を誘導するリードジェネレーション用の広告フォーマットも新たに導入されています。

機械学習はここでもパーソナライゼーションに応用され、以前よりもメッセンジャー関連プロダクトでのリード獲得の機会は増えると予想できます。ユーザー側としては会話の中に無遠慮に広告が挿入される現実は変わりませんが、それが以前よりも関連性が高くなる、というユーザー体験への替わってくれば、それは広告が機能している証拠、といえるかもしれません。

動画:リールのマネタイズに向けてあらゆることを

Meta は、急速に追い上げてきている TikTok への対抗策としてリールの強化を2022年の最優先事項として掲げていました。リールはすでに Instagram の全消費時間の2割以上を占めていることもあり、この部分の拡大によるシェアの維持拡大と、ストーリーズ等と比べてマネタイズが遅れている部分の収益化が喫緊の課題です。

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第2四半期には「NFT」の取り扱いや「クリエイティブツール」の提供など、リール拡大に向けて矢継ぎ早に手を打ってきていますが、直近で追加された拡大策の一つが、リールのカルーセル広告に追加できるサウンド コレクションの無料提供です。

これにより、広告主はライブラリから曲を選択したり、コンテンツに基づいて曲に最適なトラックをアプリに選択させる、あるいは広告マネージャーで最適なトラックを自動的に設定できるようになります。

背景には、2022年7月に Meta がワーナーやユニバーサルといった大手の音楽レーベルと結んだ収益分配契約が存在しています。ユーザーは高品質の楽曲がリールの生成時に利用できることになるので、リールのクリエイターの質的向上と、オーディエンスの拡大に寄与する可能性が考えられます。(ちなみに、レーベルやアーティストはクリエイターの投稿にライセンス音楽を供与することでが収益の一部を受け取ることができるので、音楽業界では地味に話題になりました)

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なお、リールの広告へのロイヤリティフリー楽曲の提供は、既存の投稿やカスタマイズしたプレースメントアセットの広告、 Creative Hub を使用した投稿等には適用されず、現時点では Instagram リールのカルーセル広告でのみ利用できるようです。このあたりもリール優先の姿勢が明確に見て取れますね。

ユーザーの拡大策の車輪のもう一方は、広告枠の増加です。リールが終了した後に4 ~10 秒後にスキップ可能なかたちで掲出されるポストループ広告や、リールコンテンツの下部に表示されるカルーセル広告もパイロットテストを開始していくとのこと。拡大と収益化の両輪を駆使し、とにかくリールのマネタイズでできることは何でもやるという姿勢がはっきり出ています。

インプレッション単価は引き上がるのか

直近の四半期決算では北米と欧州の主要国を中心にダウントレンドが続いているMetaですが(特にDAU)、内訳を見るとアジア等の人口増加国家では引き続き若干のアップトレンドをキープしています。

APACとその他では伸びている(2022Q2決算より)

Advanage Suite の利用が目論見通り進んでくると、Meta の各アプリ(Facebook、Instagram、WhatsApp)の広告カバレッジとエンゲージメント率は上昇し、徐々にではあると思いますがインプレッション単価に上昇圧力がかかってくると考えられます。

また、今回のアップデートの肝であるリールは、TikTok対策としても分かるとおり「比較的若年層への対策」かつ「マネタイズが遅れていた部分への投資」にあたるため、利用者数が多く若年層比率が高いアジア圏やその他欧米以外の国家でうまくハマってくると単価上昇への追い風になるでしょう。今後の DAUs と avgCPM の推移が楽しみです!

余談ですが、一般には先進国よりも新興国のほうがインフレ率が高いとされていますので、今回の対策と世界情勢がどのように影響を及ぼしあうかも併せて注目したいところです。Meta の決算はドル建てなので為替次第でデータの読み方が変わってしまうかもしれません。そのあたりも気をつけて分析していきたいと思います。