Google が 2024年2月1日(日本時間2月2日)にレスポンシブ検索広告のアップデートを発表している。
その内容をざっとまとめると、以下の3点。
- パフォーマンスの向上が予測される場合にかぎり、見出しを1本表示
- キャンペーンレベルの見出しと説明文を開始
- アカウントレベルの自動アセット4種が手動アセットと同列の扱いに
どれも比較的大きなアップデートだが、中でも注目すべきは「1. パフォーマンスの向上が予測される場合にかぎり、見出しを1本表示」だと思われる。
リスティング広告老人会のみなさんにはおなじみの「タイトル1本表示」がなんと約8年ぶりにリバイバルしているのだ! 私はこのリリースを見た瞬間に思わず「おかえり」と言ってしまいました。
「見出し=1つ」の時代のほうが長かった
なお、Google のテキスト広告の見出しは 1つだけだった時代が長かった。現在の Google 広告の原型となる Google アドワーズ広告が始まったのは(日本では)2002年8月からだが、それから 14年後の 2016年に拡張テキスト広告がローンチされるまで、見出しはずっと1つだけの時代がつづいた。
入稿できる広告がすべて拡張テキスト広告に切り替わってからは見出しは 2つに増え、広告をつくる際はこの 2本の見出しをどう組み合わせるかを考えることになった。さらにその後にレスポンシブ検索広告が登場してからは見出しの数はなんと最大15本(!)まで登録可能になり、検索結果には最大で3本の見出しが表示されるようになった(文字数の関係でほとんどの場合は2本だったが)。
この変遷を見ていくと、とにかく Google は 検索結果(SERP)での情報量を増やしたかったんだなと感じられる。拡張テキスト広告ではそれ以前のスタンダードな検索広告と比べて 50% ほど表示される文字数が増えていたし、広告表示オプション(現在のアセット)はどんどん種類が増え、広告表示はサイトリンクや電話番号など、いろんな装飾でデコられるようになっていった。
レスポンシブ検索広告のみの時代にとなった現在でも、表示される情報量としてはそれほど変わらないものの、入力可能な情報量はさらに数倍に増えている。(なにせ見出しだけでも2本→15本のジャンプアップなのだ)
シンプルイズベストなときがある
この情報量の増加を活かすために、Google は機械学習を磨いてきた。というか機械学習を活かすために入力項目をどんどん増やしているという言い方のほうが正しいかもしれない。
クエリに合わせたアセットの組み合わせの多様さは、適切なタイミングで適切な組み合わせがユーザーに届くようにという大義名分で、この瞬間も最適化のための学習に使われている。その成果はマッチングの精度となって現れ、自動入札とのダイナミズムによって Google の業績にも強く反映されているのだ。
そして、その機械学習が示した回答の一つが、見出しは 1本がいちばん成果がよいときがあるということだという。Back to the basic とはまさにこのこと!
個人的には、この「1つ見出しを減らす」という引き算をシステムに許す意思決定は、今後のGoogleのさらなる収益化にとって非常に大きいものだと感じている。
なぜなら、実際に「擬似的に見出しを 1本のように見せる」広告が成果がいいケースがあると、運用者なら経験的に知っているからだ。
たとえば指名検索のように「明らかにそのサイトのトップページに行きたい」というインテントが支配的なクエリについては、広告文はごちゃごちゃデコるよりも「明らかにこのリンクがトップページですよ」と伝えたほうが親切だろう。そういう意図で見出しをつくれば自然と広告はシンプルで簡潔になるし、実際にそのほうがクリック率は高くなる。(事例はたくさんあるけどお出しできなくてすみません)
一方で、検索広告の進化の過程を見ていけばわかるとおり、今まではずっと情報量を増やすほうに進化してきた流れの延長で、レスポンシブ検索広告も入力の際に「3本以上の見出しを入れる」ことが必須項目なっていた。そのため「2本を固定でつなげて擬似的に1本にする」広告に仕上げるにはちょっとした工夫が必要だったし、ましてや「1本」だけで完結させることはそもそも不可能だった。
Google からすればなるべく見出しを固定させないことが学習の強化につながるわけだから当たり前といえば当たり前の仕様なのだが、増やそうとやっきになっているときほど引き算の効用には気づきにくいものだ。
Google はこの1本表示を2023年からベータテストを行っていたらしい。その結果「1本のほうがよいときがある」とデータを通して知ってしまったことで、それを急いでシステムに組み込むことにしたようだ。情報量を足し算するだけの方向に進化してきた見出しが、ここにきて引き算を獲得した。増えたパターンはわずかだが、これによるテキスト広告の振り幅はより大きなものとなるに違いない。
実際にはどう表示されるか
では、実際の仕様はどうなっているのだろうか。
しつこいようだが、見出しが1本のみで表示されるのは、あくまで「パフォーマンス向上が予測される場合」にかぎる。
1本のみで表示される場合、もともと表示されるはずだったもう片方の見出しはどうなるかというと、少し下に移動して、説明文の先頭に表示されるようだ。
この仕様を見るかぎり、これまでの見出しの組み合わせ(2本表示)を学習していった結果は保持したまま、高い成果の組み合わせで 1本表示を試すことで成果の振り幅を広げていくということなのかもしれない。1本のみの表示を学習して予測に組み入れるのであれば、見出しを説明文に組み込む必要はないからだ。
なお、1本の見出しで表示されているかどうかは組み合わせレポートから確認できるらしい。この調子でぜひ個別アセットの詳細レポートもお願いします。
固定のピン止めは引き続き有効
なお、見出しの位置1・位置 2、あるいは説明文の位置1に固定されているアセットがある場合、それらは引き続きその設定を守って表示されるらしい。
Note: If you need to include specific headline text in your ads for legal/brand reasons, pinning will continue to ensure those assets serve as headlines. The Combinations report will show how often your ads served with this new behavior.
— AdsLiaison (@adsliaison) February 1, 2024
ジニーマービン女史もそうおっしゃってました
ちなみに筆者はどちらかというとピン止め推進派なのだが、Google が入力項目を増やして動的に広告を進化させてきたため、ピン止めにはいつも少しだけうしろめたさを感じていた。
そのあたりの気持ちはここに吐露しています
今回の更新で 1本見出しが解禁になったことで、不思議ではあるがこのうしろめたさは解消されると感じている。1本見出しは、広告文のパターンは増えるので動的な変化という意味ではより拡張しているが、同時にユーザーにとっての適切さは必ずしも情報量の増大を意味しない、というメッセージでもある。たくさんのパターンを試すは試すけど、ピン止めの効用を間接的に認めたということでもあるのだ。
広告主がピン止めする理由の多くは、無作為に試すことによって起きる副作用への抵抗だったはずだ。現実には法的なレギュレーションもあるし、コピーを伝える対象によってはメッセージは固定されていたほうがいいことも多い。それが今回のアップデートで部分的にではあるが認められた感じがする。
設定は変えなくてもいいが確認は必要
ピン止めの継続によって、「2本を固定でつなげて擬似的に1本にする」ような設計で広告文をつくってきたアカウントでは、大きな変更は必要ないと思われる。
加えて、そういった固定化を一切せずにランダムでぶん回していたキャンペーンや広告グループでも、一定の恩恵があると思われる。広告主側に急いで再設定が必要なアップデートではないかもしれないが、出力側が 1本表示という柔軟性を得たことで、機械学習の振り幅は確実に広がった。CTR に影響があるアカウントも出てくると思われる。
(もちろん、もし 1本表示だと意味が通らない広告文があれば見直したほうがよいと思います)
なお、この柔軟性は「2. キャンペーンレベルの見出しと説明文を開始」と「3. アカウントレベルの自動アセット4種が手動アセットと同列の扱いに」によってさらに活かされてくるだろう。
本記事では長くなるので説明は省くが、どちらも初期設計のガイダンスに仕込むことで設定を誘導できるし、利用が広がってくれば怠惰な広告アカウントでも柔軟性と多様性を両立できるはずだ。AIというか、機械学習の活かし方として非常に Google らしい打ち手だなと感じる。