TikTokの検索広告がおもしろそうなので期待している

TikTok の検索広告が2024年の9月末に発表されている。先行してアメリカで開始するとのことなので、徐々にグローバルに展開していくことが期待できる。

検索広告が発表されたものの、TikTok の検索結果には以前から広告枠があるので、「新たにはじまった検索広告」と「今まで検索結果にあった広告枠」は何が違うのだろうか?という疑問が湧く。

ここのところをあらかじめ整理しておきたい。

トグルとの一番の差はターゲティングの違い

2023年8月に発表され、約1年後の2024年8月に日本でも利用できるようになった「Search Ads Toggle (検索連動型広告トグル)」というものがある。

トグルという名前のとおり、レバーひとつで配信プレースメントを検索結果にも拡張できるという機能だ。

Search Ads Toggle のイメージ

このトグルによって今まで検索結果にも広告が出ていたわけなのだが、トグルは乱暴に言ってしまえば「検索結果というプレースメントにも広告が出る」というものに過ぎなかった。

もちろん広告の内容を読み取って意味的に近い検索クエリに寄せてくれるような仕様にはなっていたので、単なるプレースメント以上の関連性は担保されていたと思うが、肝心のキーワードでのターゲティングはできない仕様になっていた。(除外はできました)

今回発表された検索広告キャンペーンは、トグルとは違って検索結果にキーワードベースでのターゲティングができる。れっきとした TikTok の検索連動型広告になっているのだ。

TikTokの検索広告がおもしろいと思う理由

余談だが、筆者は以前から「主要なSNSにはすべて検索プロダクトが登場して、いくつかは主要製品になる」という予想をしていた。

予想に沿うようなリリースが出るといきなり確証バイアスおじさんになってしまうのが恥ずかしいのだが、それでも TikTok の検索連動型広告にはやっぱり「我が意を得たり!」と思って期待してしまう。

期待している理由の一つに、それが Instagram より早くローンチされたという判断の良さが挙げられる。

X(旧Twitter)にキーワードターゲティングが登場した際にも同じようなことを書いたが、「検索結果に広告枠を作ること」と、「キーワードターゲティングの配信先として検索結果に広告が出る」のでは、広告枠の場所は同じでも、その価値には天と地ほどの差がある。

似たようなことをこの記事でも書いています

前者は「検索結果がインプレッションリクエストに対応するための数あるプレースメントの一つ」なのに対し、後者は「ユーザーの欲求に対する意味のある結果(≒回答)を表示する場所」という違いがある。

意味のある回答を提示する役割として検索結果に広告枠が用意されるわけだから、ユーザーの欲求に対して直接的にターゲティングできる機能がないと広告が回答としての役割を担いにくい。

だから検索結果への広告枠にはキーワードでターゲットできるべきだし、そうでないと広告の成果も出にくいはずだ。

なぜ Instagram と比較してしまうかというと、ショート動画が勢力を増す中で「TikTok化している」と揶揄されてきた Instagram は、TikTok より厚いユーザー層を持つ大先輩ながら、検索のマネタイズがとにかく遅かったからだ。(遅いというか、まだできていない)

2024年10月現在も、検索結果をプレースメントの一つとして指定はできるものの、キーワードターゲティングはまだ開発されていない。今回発表されたTikTok や 2023年に発表された X(旧Twitter)のキーワードターゲティングとは違い、「インプレッションリクエストに対応するための数あるプレースメントの一つに過ぎない」という捉え方がずっと変わっていない。

この彼我の姿勢の差に、TikTok の将来的な伸びしろを見てしまうのである。

検索結果のRPMは高い

検索といえば Google についても触れないといけない。検索の巨人が SERP(検索結果)をドル箱として20年以上も驚異的な成長率を維持できているのは、ひとえに SERP の RPM が他の媒体やプラットフォームよりも桁違いに高いからである。インプレッションから生み出される収益の効率が、他のメディアの比ではないのだ。

例を挙げてみると、表示回数が10,000回、クリック数が500回で、費用が50,000円の検索広告があったとする。その場合の平均クリック率は 5% で、平均クリック単価が100円になる。

この100円という平均クリック単価は、Eコマースだったらやや高いかもしれないし、金融や人材だったらおそらく一般的にはだいぶ安いという、ごくごくありふれた水準だと思う。5% の平均クリック率も、検索であれば特に難しい数字ではない。

そういうどこにでもあるような平均的な水準の検索広告は、RPM に直すといったいいくらになるのか?

RPMの計算式

上記の計算式にあてはめてみると、この「表示回数が10,000回、クリック数が500回で、費用が50,000円の広告」の RPM は ( 50,000円 / 10,000回 )*1000回 = 5,000円 となる。ご、5,000円!

ちなみに平均クリック単価が 2倍の 200円に上がれば RPM は 10,000円になってしまう。いっ、10,000円!?

金融や人材、美容や健康食品などの高単価な分野であれば1クリックあたり数百円以上、場合によっては4桁円支払うことはザラにある。(自動入札のキャンペーンなら検索語句レポートを一度見てみてほしい。目玉が飛び出しそうな平均CPCになっているクエリが見つかるはずだ)

そう考えると、多くの分野で 数万円する RPM の広告で溢れかえっているのが検索連動型広告だといえるだろう。

RPM は Revenue per Mille(1,000回表示あたりの収益)の略なので、胴元であるプラットフォームや広告枠を持つメディア側の用語になる。これを支払う側(広告主)の用語である CPM(Cost per Mille) に置き換えてみると、CPM が 5,000円〜数万円する広告というのは、ネット広告のインプレッション価値としては「とても高い」と感じる方がほとんどではないだろうか。

参考: Social Media Ads Cost in 2024

ちなみに guptamedia のデータを参考にしてみると、 TikTok 広告の平均 CPM は3.69ドル(約520円)だと言われている。他のデータでは6ドルだったり10ドルだったりするのもあるので調査によって幅はあるが、いずれにせよ均すと日本円で1,000円前後だと考えておけば大きくハズしていることはなさそうだ。(SNS で一番 CPM が高い Meta でも平均すると 7 ドル程度)

この CPM の差だけを見ても、検索連動型広告がいかに高単価・高収益なのかが分かると思う。

参考: Social Media Ads Cost in 2024

もちろん TikTok と Google の検索広告を単純に比べるべきではないし、TikTok がいきなり Google 並のオークションプレッシャーになることはまず考えにくいから、TikTok の CPM が検索広告によってすぐに引き上がるということはないだろう。

広告表現はテキストではなく動画や静止画だし、検索結果に収まる広告枠の数(Depth)や検索されるクエリの幅(≒Coverage)も Google より少ない。クエリの質だったり、ユーザーが求めているコンテキストも純粋な検索エンジンとは違ったものになる。

だから一概に比べるものではないことは重々承知のうえで、それでも検索面のマネタイズ強化が、現在の 4ドル未満という低い平均 CPM を押し上げる要因の一つになるだろうことは容易に想像できる。

検索エンジンとしてのTikTok

ただ、仮に検索結果と広告のマッチング精度が上がって CPM/RPM が上昇したとしても、その検索面自体のボリュームが少なければ収益性を引き上げるドライバーにはなりにくい。

重要なのは、どれだけ検索されているか。その量的な問題だろう。

TikTokによると、TikTokの検索数は1日あたり 30億回を超えており、ユーザーの 23% がアプリを開いてから 30秒以内に何かを検索しているらしい。

TikTok がどのレベルのアクションを検索としてカウントしているか(例:ハッシュタグやトレンドのタップ等も含むのか)は不明だが、Google の1日あたりの検索数が60億回くらいと言われているので、TikTok はすでにとんでもない量のクエリを捌いていることになる。

2023年に行われた Adobe の調査でも、5 人に 2 人以上が TikTok を検索エンジンとして使用しているとの報告がある。

若い世代ほどその傾向は強い

もちろん TikTok 内の人気動画が音楽やレシピ、ファッション等の分野に偏っている以上、検索クエリの傾向も Google ほどの広がりがないことは想像できる。

それでも、上記の調査では Z世代の 10人に 1人が、検索エンジンとして Google よりも TikTok を優先しているという記載もあることからして、検索を利用するメディアに以前よりも変化が起きているのは間違いないだろう。

対Google とかではないはず

検索なのでつい Google との比較を強調してしまったが、個人的には TikTok が近い将来 Google の検索広告を侵食してくる可能性は低いと思う。両者を利用するユーザーが検索結果に求めているものはそれぞれ違うからだ。

TikTok のユーザーはコンテンツを視聴するためにアプリを利用していて、Google のように積極的に情報や解決方法を見つけ出すために利用しているわけではない。検索というよりレコメンドエンジンに近いだろう。

だからそれぞれはユーザーにとって別々のもののはず。Google と TikTok もお互いにシェアを奪い合うゼロサムゲームをやっているわけではなく、それぞれのプラットフォームで検索結果をマネタイズする機能を開発し、それがユーザーにとって便利であれば RPM が上がるという、実に単純なものだと思う。広告主がキーワードターゲティングできればユーザーにとって関連性が上がりやすくて便利というだけだ。

ユーザーにとって使いやすければ、広告が嫌われる可能性もまた減ってくるし、TikTok 自身もそれをマネタイズの方針として採用している。

上記の記事でも言及したように、TikTok は通常の動画広告も強制的に視聴させる方式ではなく、スキップ可能にしたうえでハロー効果による広告の期待値を上げる取り組みで成果を上げている。

強制視聴ではないのでユーザーの離反は最小限で済み、配信方法や単価ではなく、広告主がクリエイティブに目を向けるインセンティブを作っている。

今回の検索広告の登場によって、ターゲティングが今まで以上にはっきりすることで、クリエイティブの多様性は広がる可能性を秘めている。ブランド認知だけでなくショッピング広告等によるダイレクトマーケティングなども増えていくだろう。

人が集まるところに検索は発生すると考えると、検索エンジンだから検索、動画だから動画、と紋切り型にジャンルを分けていく捉え方では無理が出る。YouTube がすでに世界で第2位の検索サイトだとも言われているように、動画を見たい人は動画サイトで検索するし、お店を探す人は地図アプリで、メールならメール、SNS なら SNS と、辿りつきたい情報に合わせて適切な場所で検索するだけだ。検索はあらゆるところに遍在している。

それらをマネタイズする手段が、これまでは検索エンジンの検索連動型広告しかなかっただけだと思う。TikTok を皮切りに、動画アプリの検索連動型広告が今後どのように発展していくのか、広告を運用する側で確かめていきたい。楽しみですね。