広告運用におけるホワイトリストとブラックリスト

広告運用では、特定のドメインや特定の広告枠を指す「プレースメント」をターゲティングしたり、特定のクエリや特定のウェブサイトで広告が配信されないように「除外リスト」を設定することがあります。

これらは利用するプラットフォームによって個々の名称や設定方法が微妙に違いますが、基本的にはホワイトリストもしくはブラックリストという考え方を運用型広告に適用したものです。システムによる自動化ではなく、人間がプラットフォームに対してターゲティングを制限する(指定する)設定になります。

配信するターゲットを指定する「ホワイトリスト」と、ブロックするターゲットを指定する「ブラックリスト」は、一見するとシンプルな鏡の表と裏なのですが、影響の度合いや使い方は微妙に違っていたりします。

それぞれの特性を理解していた方が広告運用の解像度が上がりやすいと思いますので、まずは両者の基本を押さえていきましょう!

広告のホワイトリスト=プレースメントターゲット

広告運用におけるホワイトリストとは、端的に言えば広告を配信したい特定のプレースメント(広告枠やドメイン)リストを指定することを指します。

一般的なホワイトリストの定義は、「ある特定の対象を除いて、すべてのリソースへのアクセスを阻止する」アプローチのことです。特定の対象のみ許可する(それ以外は許可しない)ので、別名「許可リスト」などと呼ばれます。

配信対象を指定する:プレースメント

Google広告のような大規模なプラットフォームであれば数え切れないほど多くのインベントリ(広告在庫)が配信対象になるため、広告主はそこから地域や年齢性別といったデモグラフィック、興味関心や閲覧履歴ごとに分類したオーディエンス、テーマやキーワードのようなコンテンツ/トピックなどでターゲットを設定し、自社の広告目標に合わせた配信対象へと絞り込んでいきます。上記の定義に沿えば、通常のターゲティングはすべてホワイトリスト的です。

一方で、人をターゲットにするオーディエンスターゲティングについては、その範囲がターゲティングする側からは可視化されていません。たとえば、アウトドアブランドがキャンプに興味のある人をターゲティングしようとしたとして、実在するAさんが家族でキャンプに行くことに関心がある人なのか、あるいは有名人のキャンプ動画に興味がある人なのかは広告主からは判別できませんよね。そして、その判定は、Aさんの行動履歴や時間の経過によってかんたんに移り変わるため、状況次第でリストに含まれたり含まれなかったりします。地域や言語、性別や年齢層なども時間の経過によって移り変わるため、条件としては同様です。

そのため、オーディエンスターゲティングはホワイトリスト的ではあるものの、特定の対象のみを許可するという、ホワイトリストの定義に則った設定が原理上むずかしくなります。

広告の最小単位はインプレッション、つまり人間が広告枠に配信された広告を見た瞬間になるので、ホワイトリストの定義に沿った設定が可能なのは唯一「広告枠単位」になります。これを広告運用に当てはめたのがプレースメントターゲットです。

プレースメントターゲットでは、広告枠、あるいは広告枠があるドメインを指定することで他の枠には(他の条件がどれだけマッチしていたとしても)配信しないというホワイトリスト配信が可能になります。

ブラックリスト=除外○○のすべて

ブラックリストはホワイトリストの逆で、「特定の対象を除外すること」を指しています。

配信対象を除外する:プレースメント、キーワード、デモグラフィック、オーディエンス など

許可リストであるホワイトリストとの違いは、ブラックリストは前提として除外対象以外は常に配信される可能性がある、ということです。ホワイトリストはリストに入らない限り配信の可能性はゼロですが、ブラックリストの場合はある条件では除外されても、対象が条件から外れれば配信される可能性があります。

そのため、広告管理画面上で「除外」が可能な対象は、単一ではなく複数存在します。自由度がホワイトリストに比べて広いとも言えます。プレースメントだけでなく、キーワード(検索クエリ)、IPアドレス、地域や特定のオーディエンスなど、ターゲティング可能な要素のほとんどが原理上ブラックリスト化が可能です。

ブラックリストをうまく活用すると、キャンペーンや広告グループ単位で、ROI に悪影響をもたらす可能性がある(もたらすことが既に判明している)特定のターゲットをリストに加えることで、ターゲットの範囲を狭める代わりに適合性の向上をもたらし、将来の ROI の向上を促すことができます。ブラックリストは広告運用のもっとも基本的な設定の一つと言えるでしょう。

ホワイトリストとブラックリスト、特徴の比較

ここまでつらつらと書いてきましたが、「ホワイトリスト的か/ブラックリスト的か」はあくまで実際の広告運用を理解するための補助線でしかありませんので、現場ではそれぞれの特性や利用方法がイメージできていればよいと思います。

そこで、シンプルな両者の比較表を作ってみました。

ホワイトリストとブラックリストの比較表

ホワイトリスト
(許可リスト)
ブラックリスト
(除外リスト)
広告での設定プレースメントプレースメント、キーワード、
オーディエンス、デモグラフィックなど
前提許可制全員参加
許可対象信頼できる対象のみ下記以外すべて
ブロック対象上記以外すべて不要なもの不易なもの
リストの大きさ限定的(小さい)肥大化しやすい
調整頻度少ない多くなりやすい

表にしてしまうと単純ですが、リストの大きさや調整頻度は意外と見落としがちな視点です。

ホワイトリストとブラックリストを比較すると、多くの場合、ブラックリストの方が構造的に肥大化しやすく、メンテンナンスの頻度は上がります。

これは、ブラックリストは複数の対象を同時に選定可能なこと、リストの対象が(実際のユーザーの状況によって)常に変動するのと同時に、広告主側のキャンペーン種別やコンディションによってリスト化の判断自体が更新される可能性があるからです。

また、除外対象がキーワードやオーディエンスだった場合、リストとしては1行ですが、その1行が何百万のユーザーを対象にすることもありえます。ブラックリストは構造的に増加圧力に晒されやすいため、リストに対する十分な理解と吟味が求められます。

一方で、ホワイトリストの場合は特別に許可された対象(プレースメント)のみをターゲットとするので、広告枠やドメイン単位での配信になります。「他をすべて除外し特定の対象だけに配信する」というケースでは、その対象が短期間で極端に増えるということは一般的に考えにくいです。それは広告に求める目的が ROI であれブランディングであれ、先に実績(あるいは強い予測)がないとリストには加えにくいためです。

結果的にホワイトリストは肥大しにくく、リストは小さくなり、更新頻度も低くなっていきます。

これは言い方を変えれば「放置」です。要するに一度設定したらその後は放っておかれやすい。ホワイトリストを追加するには常に探索的な態度(新しい対象を探していく姿勢)を取っていなければなりませんが、それは一般的にはブラックリストにおける発見的な態度(実績から除外対象を探す姿勢)よりも維持するのが難しいと思います。

そう考えると、ホワイトリストは広告運用としては非常に保守的な方法であると言えますね。(必ずしもブラックリストが発展的な運用だとは言えないのですが!)

ホワイトリストとブラックリスト、それぞれのメリデメ

それぞれの特徴を書き出したので、メリット・デメリットについても表にまとめてみます。

何をメリットとして捉え、何をデメリットとするかはキャンペーンの性質や予算などによって変化すると思いますが、一般的には以下のような表に落ち着くことが多いと思います。

ホワイトリスト/ブラックリストのメリット・デメリット

メリットデメリット
ホワイトリスト
(プレースメント)
・チェック機能が働きやすい
・フラウドに強い(安全性が高い)
・メンテナンスコストが少ない
・工夫しないと追加されにくい
・スケールさせにくい
・機会損失に気づけない
ブラックリスト
(除外○○)
・スケールさせやすい
・発見が容易(メンテナンスしやすい)
・設定が陳腐化しやすい
・メンテナンスコストが高い
・機会損失に気づきにくい

インターネットの宇宙は広大なので、日々たくさんの新しいサイトやページが生まれていますし、個人の閲覧履歴やデバイス、位置情報もすぐに移り変わります。対象が常に大きく変動する環境ではブラックリストは万能とは言えず、常に陳腐化と闘っていかなければなりませんし、そのメンテナンスコストは決して少なくはありません。

一方で、日々たくさんの新しいサイトやページが生まれているということは、ブラックリストの方がホワイトリストに比べてスケールさせやすい(スケールが設定に内包されている)と言えます。ホワイトリストでは、特定のプレースメントにしか広告が出ないため、管理画面上で新たな発見をすることはかなり難しくなります。隣に素晴らしいサイトやページが存在していても、それに気づくことができないという設定がホワイトリストです。

ホワイトリストでは常に探索的な態度を取らなければならないというのは、この機会損失への気づかなさが理由です。気の利いたプラットフォームであれば類似プレースメントのレコメンデーションがありますが、仮にそれがなかったとしても管理画面から離れて常に一人のユーザーして新たな機会を探さねばなりません。

もちろん、そのような潜在的な機会損失よりも他を排除する方がメリットが大きいタイプのキャンペーンの場合(例:ブランドセーフティが何よりも優先する公共機関のキャンペーンなど)であれば、ホワイトリストは十分に検討に値するかと思います。

発見的アプローチ、選択、濃淡

上記で比較表みたいなものを作ってしまったので、油断するとホワイトリストとブラックリストは単純な二者択一的な設定に読めてしまうかもしれませんが、現実の広告運用ではほとんどの場合ブラックリストが活用され、最初からホワイトリストで運用するということは稀だと思います。ROI を求めるキャンペーンであればなおさら。

ブラックリストにしても、確実に予見できるネガティブ要素をあらかじめ除外設定しつつ、あとは実績を見ながら調整していくという発見的なアプローチを採用することが多いのではないでしょうか。

また、自動化に完全に任せず手動をブレンドしていく運用であれば、いきなり除外せずに入札調整比のようなリストに濃淡をつけるアプローチで、可能性を完全に排除せずに効率を上げていくような運用が一般的です。同様に、よいプレースメントが見つかったからといって切り出してホワイトリスト運用するといったことはせず、対象のプレースメントだけ単価を引き上げることで露出の可能性を増やす、といった運用も行われているでしょう。

それぞれのデメリットをうまく打ち消しながら、メリットを享受しやすくする、そういったハイブリッドな運用方法が実際の現場では行われています。そして、キャンペーンが大きくなればなるほど、それを一つの広告プラットフォームの中で展開するだけでなく、目的に合わせて複数の広告プラットフォームを組み合わせてポートフォリオを組んでいくことが現代の広告運用ではないかと思います。

月末や月初は予算やターゲットの見直しタイミングであることが多いですよね。ホワイトリスト/ブラックリストの考え方をベースにして、次の区切りで運用方針の整理をしてみてはいかがでしょうか!